
検索エンジンが消えた夜、電気が止まった冬、そして寡婦だけのキャンプ
夜、タクシーアプリを開いて車を呼ぶ。配達アプリで夕食を注文する。検索バーに今日の天気を打ち込む。こうした行為は、ロシアでは長らく一つの会社に支えられてきた。ヤンデックス(Yandex)――ロシア語圏で最大の検索エンジンであり、タクシーも配送も担う、生活の背骨のような存在だ。
10月9日、そのヤンデックスのデータセンターの一部がウクライナのドローン攻撃を受け、「完全に使用不能」になったとヤンデックス自身が発表した。場所はモスクワの南西約150キロ、カルーガ市。州知事は、州内インフラへの攻撃で9人が負傷したと主張している。前日には別の州の別のデータセンターも標的になり、火災とサービス障害が起きていた。攻撃されたのは戦車でも司令部でもない。人々が夕食を注文し、車を呼ぶための、ごく日常的なデジタルの基盤だった。
この出来事を単独のニュースとして読めば、「IT企業が巻き込まれた」で終わる。だが同じ週に報じられた他の三つのニュースを並べてみると、別の輪郭が見えてくる。
イエメンのフーシ派は、サウジアラビアへの攻撃を続けている。今週にはリヤド国際空港への攻撃を含む大規模な空爆で3人が死亡した。これを受けてパキスタンは、8月にサウジアラビア・トルコと結んだ相互防衛協定に基づき、「相当数」の軍をサウジアラビアに展開したと発表した。狙われているのは最前線の塹壕ではなく、人々が利用する国際空港であり、守るために動員されたのは他国の正規軍である。
ガザでは、イスラエルの作戦と3年間の戦争の結果、国連によれば女性の4人に1人が夫と離れ離れになった。死亡、拘束、行方不明――理由はさまざまだが、結果として家庭を一人で支える女性が急増している。ガザ社会開発省によれば、寡婦の数は戦前の2万人余りから5万人に膨らんだという。暴行や嫌がらせの危険にさらされた女性たちは、寡婦と子どもだけの避難民キャンプに身を寄せ、自らその運営を担うようになっている。ここで壊れたのは建物だけではない。家父長制の社会で「夫」という保護の仕組みそのものが失われ、代わりの保護を誰かが即興で作らなければならなかった。
そしてウクライナ。ゼレンスキー大統領は10月9日、ロシアによる最近の攻撃で電力網と送電施設に「甚大な被害」が出たと明らかにした。複数の地域で緊急停電と電力使用制限が実施され、キーウ市長は非常用暖房、燃料、食料、飲料水の備蓄を進めていると述べた。大統領は、重要インフラを守るための「レジリエンス計画」の実施が地方当局で遅れていることも批判している。狙われているのはミサイル基地ではなく、冬を越すための電気そのものだ。
データセンター、空港、避難民キャンプ、送電網。この四つに共通しているのは、それがどれも軍事目標であると同時に、誰かの生活そのものを支える施設だという点だ。タクシーを呼ぶための検索エンジン、人が家に帰るための空港、夫を失った女性と子どもが眠る場所、停電で凍えないための電力網――どれも「戦闘」という言葉だけでは語り尽くせない。攻撃する側にとっては相手の社会機能を麻痺させる合理的な標的であり、攻撃される側にとっては住民の日常そのものである。この二重性こそが、現代の戦争で民間インフラが狙われ続ける理由なのではないか、と見ることができる。
フランスやヨーロッパでは、こうした出来事はしばしば「近隣地域の安全保障」や「人道支援」の課題として受け止められる。ウクライナの停電もガザの避難民キャンプも、地理的に近い危機として報じられ続けている。一方、日本の読者にとっては、電力・通信・避難所の継続性という論点そのものが、別の回路から刺さるのではないか。戦争の記憶と、災害でインフラが止まる経験の両方を持つ社会では、「電気が止まる」「避難所が足りない」という事実は抽象的な安全保障の話ではなく、具体的な生活不安として理解されやすい、と言えるかもしれない。アメリカについては、軍事支援そのものに加えて、データセンターや検索エンジンのような民間テック企業の設備が標的になっている事実は、軍と民間企業の境界がどこにあるのかという問いを改めて突きつけるものだろう。
国際社会がこの問題で合意しにくいのは、まさにこの「軍民両用」という性質のためだと考えられる。データセンターは民間のタクシー配車にも軍の通信にも使われうる。空港は観光客も兵站も運ぶ。電力網は家庭の暖房も防空システムも動かす。だからこそ、攻撃する側は「軍事目標だ」と主張でき、攻撃される側は「市民生活への攻撃だ」と訴える。両方の言い分が、同じ一つの施設について同時に成り立ってしまう。
この曖昧さが整理されないまま今後も戦闘が続けば、被害は戦場の外側へとじわじわ広がっていくだろう。ウクライナの冬は電力網の復旧速度にかかっており、ガザの寡婦たちは行政機構が機能しないまま自力でキャンプを運営し続けなければならず、サウジアラビアとパキスタンは条約という形で「防衛の肩代わり」を制度化し始めている。インフラが止まるたびに、国家ではなく個人が、その場しのぎの仕組みを作って穴を埋めている――これが、今回の四つのニュースを貫く最も静かな共通点だと言えるのではないだろうか。
軍事と民生の機能が重なり合うインフラを、誰が、どんな基準で「保護すべき対象」と認めるべきなのか。あなたの街の電気や通信が、同じように狙われる対象になったとしたら、その基準は誰に委ねたいだろうか。
出典
- franceinfo (titres):En Russie, une nouvelle attaque de drone ukrainienne contre un centre du géant de la tech Yandex (2026/10/9)
- franceinfo (titres):Des forces armées pakistanaises déployées pour défendre l'Arabie saoudite, attaquée par les houthis du Yémen (2026/10/9)
- franceinfo (titres):REPORTAGE. À Gaza, un camp de déplacés réservé aux veuves et à leurs enfants (2026/10/9)
- franceinfo (titres):Les récentes frappes russes en Ukraine ont causé des "dommages considérables" au réseau électrique, prévient Volodymyr Zelensky (2026/10/9)