
「保存料不使用」の裏側を読むのは誰の仕事か――AIの偽判例、墜落機のミサイル説、食品表示をつなぐ問い
スーパーの冷蔵棚の前で、フルーツ入りヨーグルトを手に取る場面を想像してほしい。パッケージの表には「保存料不使用、着色料不使用」とある。安心してかごに入れる。では、裏返して原材料の一覧を読み、見慣れない添加物の名前を一つずつ調べる人はどれほどいるだろうか。そして、その手間は本来、誰が負うべきものなのか。
フランスで11月3日に公表された調査は、この問いを正面から突きつけている。食品や化粧品をスキャンして評価するアプリYukaと、消費者団体Que Choisir Ensembleが、20ブランドの20製品を調べた。結論は、「保存料不使用、着色料不使用」という表示が「誤解を招く」というものだ。ある添加物が入っていないと謳いながら、別の、議論のある添加物を含む製品があるという。調査はこれを、環境配慮を偽装するグリーンウォッシングになぞらえて「アディティブ・ウォッシング」と呼ぶ。
対象製品はすべて超加工食品で、Yukaが高リスクを示す赤色に分類する添加物を少なくとも1つ含んでいたという。Yuka共同創業者のジュリー・シャポンは、Inserm(フランス国立保健医学研究所)が2023年に行った研究に触れ、問題の添加物の組み合わせにはがんや心血管疾患のリスクが示されていると述べた。これは彼女の発言であり、ここでは評価を断定しない。
一方、メーカー側の反応は示唆的だ。取材に応じた複数のメーカーは、包装の裏に原材料の全リストがあると答えた。CarrefourとCoopérative Uは、レシピの改善を続けると強調した。つまり、情報は「出してある」。読むかどうかは消費者の側にある、という構図だ。調査の執筆者は、この種の表示が個別の法令で規制されておらず、情報の誠実性に関する一般原則が適用されるだけだと指摘する。だから二団体は、消費者自身ではなく、競争・消費・不正防止総局(DGCCRF)に全国調査と、ブランド名を含む結果の公表を求めた。確認の負担を、個人から公的機関へ移そうとする動きである。
実在しない判決が、検察官の文書に三度現れた
同じ構図は、まったく別の場所にも現れる。英国で、11歳のときに7歳の妹をレイプしたとして訴追された少年の事件だ。4月21日、担当の検察官ラヴィンダー・ディロンは、訴追を正当化する文書を作成した。弁護士が取り下げを求めると、検察官は告発の重大さを理由に退け、その根拠として2024年の控訴院判決を3回引用した。参照番号まで付いていたが、その判決は存在しなかった。
誤りに気づいたのは、文書を確認した少年の弁護士である。検察官は誤りを認め、2009年の別の判決を引用するつもりだったと説明したが、ロンドン高等法院はこの説明を「納得できない」と評した。The Guardianの調査報道によれば、誤った参照は、インターネット検索中にAIが生成した要約に由来する可能性がある。検察当局は調査上の誤りは認めたが、それ以上は説明していない。
数字も重い。ロンドンの弁護士マシュー・リーは、AIに関連する可能性がある法律上の誤りを、確認済み、疑い、異議ありを合わせて101件記録している。判決の多くが公表されないため、この数字は「氷山の一角」かもしれないと彼は見る。なお高等法院は、架空の判例が引用されたことだけでは訴追を見直すには不十分だと判断した。
ここで注目したいのは、誤りを見つけたのが相手方の弁護士だったことだ。ここからは私の解釈だが、専門家が出す文書は、受け手が検証してくれることを前提に、出されている面があるのではないか。検証役が気づかなければ、偽の判例は審理の土台に紛れ込みうる。食品表示が「裏面を読む消費者」を前提にしているのと、構造がよく似ている。
墜落機の「ミサイル説」を崩したのは誰か
11月1日の日曜、フロリダ州パームビーチ郡でプライベートジェットが急角度で墜落し、乗員2人と乗客7人が死亡した。現場がトランプ氏の邸宅マー・ア・ラゴから約10キロだったため、自爆攻撃機だった、ミサイルだった、対空防衛システムが撃墜した、といった説がネットに広がった。2日後に中間選挙を控え、こうした説はトランプ氏支持の言説にも利用されたという。
これを崩したのは、個々のユーザーの冷静さというより、検証の連鎖だった。航空業界の交信記録を公開する専門サイトが管制塔との交信録音を掲載し、米当局が真正性を確認した。録音では、副操縦士が着氷と悪天候を伝え、雷雨を避けるため高度を上げる許可を求めている。その後、機体は制御不能になった。攻撃を受けたとする発言は一度もなかった。残骸が写真に見えないという疑問にも、現場がすぐ封鎖され、破片が非常に小さかったという説明が付いた。事故原因は調査中で、NTSBは気象条件を「主要な」要素としている。この整理を伝えたのは、franceinfoの「真偽は?」という枠である。
専門サイト、当局、報道機関。それぞれが別の役割で確認を引き受けたから、噂に反論できた。逆に言えば、この連鎖のどこかが欠ければ、個人が一人で噂と向き合うことになる。
「確認できない」と認める首相と、調査を約束する保健長官
ポーランドのトゥスク首相は、ロシアの飛び地カリーニングラードとの国境で夜間に不審な動きがあり、挑発行為を阻止したと述べた。ただし発言は慎重で、「それが意図だったのであれば」と条件を付け、「それを完全に確認することは決してできないでしょう」とも語った。情報機関が数週間前から破壊工作の可能性を警告していた、という文脈つきである。
私が興味を引かれたのは、権力の座にある人物が、自分の主張の限界を自分で明かしている点だ。確認できないことを確認できないと言う。これも責任の取り方の一つだろう。
これと対照的なのが、米国の「MAHA moms」をめぐる状況だ。手作りの食事、生乳、牛脂をInstagramで勧める母親インフルエンサーたちで、中心人物のバニ・ハリは230万人のフォロワーを持つ。運動の一部には、バイデン氏はクローンだ、飛行機の白い筋は毒物だ(ケムトレイル)といった主張や、反ワクチンの立場が結び付いている。
問題はその後ろ盾である。ロバート・ケネディ・ジュニア保健長官は9月17日、反ワクチン活動家を前に、ケムトレイルを調査するとまで約束した。米国では35年ぶりの規模の麻疹の流行が続き、今年の感染者は5,000人近い。最近の世論調査では、米国人の10人に4人がMAHAを支持すると答えている。
健康情報の真偽を確かめる公的な役割を担うはずの人物が、検証より共感の側に立つ。ここが、この連作の中でいちばん重い部分だと私は考える。ただし、MAHAを動かす不信の根が、食品業界への疑いにあることも見落とせない。YukaやQue Choisir Ensembleの告発も、業界の表示への不信から出発している。分かれ目は、疑いを持つことそのものではない。疑いを、調査対象の特定、成分の確認、結果の公表という手続きに載せるか、物語に載せるかにある。これは解釈だが、的外れではないと思う。
確認の負担は、誰の肩にあるのか
四つの場面を並べると、共通の問いが見えてくる。情報の「確かさ」を保証する責任は、発信者、専門家、行政、受け手のどこに置かれているのか。食品表示では、企業は「裏面に書いてある」と言い、受け手が読むことに期待する。法廷では、専門家の文書の誤りを、相手方の弁護士が見つけた。墜落事故では、専門サイトと当局と報道が連鎖して確認した。SNS上の健康情報では、検証役であるはずの公職者が流れの一部になっている。
日本ではどうか。一般に、食品の裏面表示を読むことは消費者の心得として語られがちだとされる。生成AIの回答も「最終的には自分で確認を」と言われることが多い。もしそれが通念だとすれば、確認の負担は個人に集まりやすい。ただ、この記事の素材はフランス、英国、米国、ポーランドのニュースであり、日本の制度の実態をここで論じる根拠はない。読者自身の身の回りで考えてほしい。
今後を見通すと、AIが検索や文書作成に入り込むほど、誤りは気づかれにくい形で流通する。マシュー・リーが101件を「氷山の一角」と見る理由も、判決が公表されず誤りが見えにくいことにある。表示をめぐっては、フランスで二団体がDGCCRFの全国調査を求めた。調査が実現するかどうかはまだ分からない。それでも、確認の責任を個人から制度へ戻そうという要求が出たこと自体が、一つの方向を示している。
専門家や企業が発信した情報を、利用者自身がどこまで確かめなければならないのか。あなたが最後に「裏面」を読んだのは、いつだっただろうか。そしてその手間を、もっと別の誰かが担ってくれるべきだと感じたことはないだろうか。
出典
- franceinfo (titres):Lait cru, chemtrails et antivax : qui sont les MAHA moms, ces influenceuses qui s’invitent dans les midterms ? (2026/11/3)
- franceinfo (titres):Quand les hallucinations de l'intelligence artificielle sèment le trouble dans les tribunaux britanniques (2026/11/3)
- franceinfo (titres):VRAI OU FAUX. Le crash d'un jet privé en Floride suscite rumeurs et théories du complot, en pleines élections américaines (2026/11/3)
- franceinfo (titres):Donald Tusk affirme que la Pologne a déjoué une possible "provocation" à la frontière avec l'enclave russe de Kaliningrad (2026/11/3)
- Radio France Économie:"Sans conservateur, sans colorant" : Yuka et Que Choisir Ensemble dénoncent des mentions "trompeuses" (2026/11/3)