AntenneFrance
パレスチナ承認とネタニヤフの飛行機、二つのフランスが同じ空を通っている
国際

パレスチナ承認とネタニヤフの飛行機、二つのフランスが同じ空を通っている

1年前のあの夜、ラマラの学生サメルはスマートフォンの画面越しに、エマニュエル・マクロン大統領が国連の演壇からパレスチナ国家を承認する演説を生中継で見ていた。「力を与えてくれた」と彼は振り返る。誰かが自分たちの経験を理解し、悲しんでくれている——それだけで痛みが少し軽くなる気がした。

1年後の今、サメルは毎朝、イスラエル軍の検問所を避けるために別の道を選んで大学へ向かう。国家承認は彼の日常を何一つ変えていない。ヨルダン川西岸では年初から人的被害や物的損害を伴う攻撃が1,600件以上記録され、羊を盗まれ殴られるという住民の声も止まない。「イスラエルはヨーロッパを尊重していません。誰のことも尊重していない」とサメルは言う。

この1年で何が起きたのかを整理すると、フランスの姿勢の輪郭がはっきり見えてくる。2025年9月22日、フランスは他の9カ国とともに国連の場でパレスチナ国家を正式に承認した。二国家解決の維持、イスラエルへの圧力強化、パレスチナ自治政府への改革要求——それは、力の論理ではなく法と規範の論理で中東情勢を動かそうとする、フランス外交らしい一手だった。だが同じ週、フランスは国際刑事裁判所(CPI)から戦争犯罪と人道に対する罪で逮捕状が出ているベンヤミン・ネタニヤフ首相の航空機に、自国領空の通過を許可している。国連総会に出席するための飛行だったというが、これでフランス領空の通過は5回目、2025年だけでも3回目になる。

ここに、この記事が投げかけたい問いの核心がある。国家承認という規範的な宣言と、逮捕状の対象者を涼しい顔で領空通過させる実務とが、同じ国家の同じ時期に同居している。フランスは国際法の側に立とうとしているのか、それとも国際法を象徴的な身振りとしてだけ扱っているのか。おそらくどちらも半分正しい。フランスには自国だけでCPIの決定を実力で執行する手段がない。承認という言葉は発せられても、検問所の兵士や入植者の行動を変える力までは持たない。国際法の正統性は、宣言された瞬間にではなく、それが現地の誰かの安全に届いた瞬間に初めて確かめられるものなのだと、この1年の記録は静かに示している。

この構図を、日本から眺めるとどう映るだろうか。日本の外交は一般に、同盟による抑止と経済安全保障を安全の現実的な基盤とする発想が強いとされる。フランスのように、国家承認や国連演説を通じて対立の当事者に単独で規範的な圧力をかけるという選択肢は、日本にとってはより狭い。同盟関係を軸に据える以上、対立する当事者のどちらか一方との距離の取り方には制約がかかりやすく、フランスのような「承認という賭け」に出る自由度は相対的に小さいと考えられる。これは日本が国際法を軽視しているという話ではなく、力の裏付けをどこに置くかという設計の違いだと捉えるほうが実態に近いだろう。

一方、同じ国連総会の舞台でドナルド・トランプ米大統領が見せたのは、また別の外交の文法だった。トランプ氏はイランについて「壊滅させる」か「合意する」かを決めなければならないと述べ、中間選挙後に合意する可能性を示唆しつつ、各国にイランの孤立を呼びかけた。イラン革命防衛隊の報道官は、新たな攻撃があれば報復をより攻勢的に強化すると即座に警告している。ここには規範への言及がほとんどない。あるのは制裁、軍事力、そして取引の三点セットを組み合わせ、国際制度を必要な時にだけ選択的に使うという発想だ。米国政治の専門家ロミュアルド・スコイラが、今年のトランプ氏の演説は自らの支持基盤を鼓舞することを主目的とし、米国が「これまでにないほど国際的に孤立している」と評したのも、同じ文脈で読める。国連という国際法の器を、規範の共有の場としてではなく、自国の意思を突きつける舞台として使う姿勢である。

もう一つ、見過ごされがちな角度がある。ロシアのドミトリー・メドベージェフ前大統領は、ロシアへの厳しい姿勢に転じたフランスの国民連合を「反露的」で「キーウのナチスを支援する」政党だと批判した。国民連合側は、ロシアによる資産差し押さえや威嚇を非難し、フランスの政策をモスクワに指図させないと宣言していた。ここで起きているのは、ある国の「独立した外交姿勢」そのものが、より力を持つ外部のアクターによって定義し直されるという現象だ。主権とは、自国がそう名乗ることで成立するのではなく、相手がそれを認めるかどうかにも左右されてしまう。パレスチナの検問所で起きていることと、この欧州の政治的応酬は、規模も文脈もまったく異なる。しかし「宣言された主権」と「実力の前で試される主権」の間の落差という点では、同じ緊張を共有しているように見える。

この先、フランスの立場はより難しくなるだろう。国家承認という選択をした以上、パレスチナの人びとの日常が変わらないままであれば、その正統性への疑問はいずれフランス自身にも向けられる。米国がイランに対して力の論理を隠さず示すなかで、法と規範を掲げる欧州の外交がどこまで実効性を持てるのか、次の局面が試金石になる。日本にとっても、同盟に基づく安定と、国際法の理念との間でどう折り合いをつけるかは、遠い問題ではなく、いずれ自国の選択として問われる日が来るはずだ。

国際法を守るという外交は、力の不均衡の下で暮らす人びとの安全をどこまで具体的に変えられるのか。ラマラの検問所を毎朝避けて歩くサメルにとって、その答えはまだ何も届いていない。読者であるあなたは、この問いにどう答えるだろうか。

出典

  • franceinfo (titres):Un an après la reconnaissance de l’Etat de Palestine par la France, le quotidien des Palestiniens "ne change pas" (2026/9/22)
  • franceinfo (titres):La France a autorisé l'avion de Benyamin Netanyahou, en route pour New York, à survoler son territoire (2026/9/22)
  • franceinfo (titres):Donald Trump affirme à l'Assemblée générale de l'ONU qu'il doit décider entre "anéantir" l'Iran ou passer un "accord" (2026/9/23)
  • franceinfo (titres):Sommet de l'ONU : "Il faut s'attendre à un discours très agressif de la part du président américain à l'encontre de ses alliés historiques", prévient l'essayiste Romuald Sciora (2026/9/22)
  • franceinfo (titres):L'ex-président russe Dmitri Medvedev estime que le RN est désormais un parti "russophobe" qui soutient les "nazis" en Ukraine (2026/9/22)

フランスメディアの関連記事