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極右に議長職を渡した日、民主主義は何を手放したのか
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極右に議長職を渡した日、民主主義は何を手放したのか

48対29、棄権5。10月6日、ドイツ・ザクセン=アンハルト州議会で開かれた秘密投票の結果だ。全83議席のうち絶対多数を得て州議会議長の椅子に座ったのは、極右政党AfD(ドイツのための選択肢)の候補トビアス・ラウシュだった。ドイツで極右勢力が州議会議長を務めるのは、1945年以来初めてだという。投票用紙に書かれた名前ひとつが、ヨーロッパの民主主義が抱える問いを、数字として突きつけてくる。

同じ10月6日、フランスでも似た種類の出来事が静かに進んでいた。国民連合(RN)が、第五共和制の歴史上初めて上院の議事局に加わったのだ。9月27日の上院選挙でRNと同盟勢力・共和国右翼連合(UDR)が計15人の議員を確保したことで、上院規則が定める会派の比例配分に従い、副議長ポストが一つ回ってきた。パ=ド=カレー選出のクリストファー・シュチュレクは、まず2年間議事局書記を務め、2028年10月からは本会議場で議事を取り仕切る副議長となる予定だ。極右がドイツの地方議会を、フランスの国政機関を、それぞれ初めて「内側から」動かし始めた日として、この日は記憶されるかもしれない。

ザクセン=アンハルト州での勝利は、議長職だけにとどまらない意味を持つ。専門家が注視しているのは、12月に予定されるAfDのウルリヒ・ジークムントによる州政府首班選出と、その先にある人事権の行使だ。刑事警察職員の連盟を率いるディルク・ペグローは、AfD出身の州内相が誕生すれば、警察の運用方針そのものが変わりうると警告する。AfDが掲げる「再移民(remigration)」政策を実施するため、外国人とみなされる人々への職務質問に警察官を振り向けることも、デモ対応で「極左だけに集中する」よう指示することも、制度上は可能だというのだ。さらに踏み込んで、ペグローはAfDとロシアの接近を理由に、テロ対策など機密情報の共有を制限せざるを得ないジレンマにも言及している。州を国全体の治安保障体制から切り離すことはできないのに、情報を渡すこと自体がリスクになる——これは、選挙で選ばれた勢力が制度に入り込んだときに初めて具体的な形を取る問題だ。

なぜドイツでは、議長職ひとつがここまで深刻に受け止められるのか。この問いに答えるには、フランスでの受け止め方との違いに目を向けるとわかりやすい。フランスの上院議事局入りは、RNの制度への包摂として報じられてはいるが、記事が強調するのは上院規則という手続き的な正当性だ。15人の議員を擁する会派には比例に応じてポストが回る——これは極右であるかどうかを問わない、形式上はニュートラルなルールの適用である。一方ドイツでは、同じ「制度への参入」が、警察・公務員人事・検察・情報機関という国家の実力装置に触れる話として語られる。この温度差は、ナチズムの記憶を国家の仕組みに刻み込んできたドイツと、共和国の普遍主義を掲げつつも極右の「正常化」をめぐる論争を繰り返してきたフランスとで、同じ出来事が異なる警戒レベルで受け止められることを示しているように見える。

そしてフランスには、もう一つ示唆的な出来事がある。アルザス地方でRNが唯一市政を握っていたヴィッテルスハイム市で、2026年3月の市議選がストラスブール行政裁判所によって無効とされたのだ。理由は二つ。候補者の一人のイタリア国籍が投票用紙に記載されていなかったこと、そしてRN候補が選挙戦終盤にフェイスブックで前市長の市警察運営を批判する投稿をし、対立候補が反論する時間がなかったことだ。前市長はわずか17票差で敗れていた。この判決は、極右の勝利そのものを否定するものではない。手続きの瑕疵という、誰に対しても等しく適用されるはずのルール違反を理由にしている。ここに見えるのは、選挙結果を覆す力ではなく、選挙の「正しさ」を審査する力が、政治的立場とは独立に機能しているという姿だ。司法が政治的多数派からどれだけ自律していられるかという、この記事群全体を貫く論点が、地方の一市議選という小さな舞台で具体的に試されている。

こうした個別の出来事は、より大きな流れの中にある。スペインのペドロ・サンチェス首相は11月29日に前倒し総選挙を行うと発表した。社会労働党が敗れれば、EUで進歩派が率いる政府はデンマークとマルタだけになり、ポルトガル、ドイツ、ポーランド、ギリシャのように伝統的右派が率いる国々の仲間入りをすることになる。野党・国民党が勝利すれば、極右ボックスとの連立政権が誕生する可能性もあり、そうなればイタリア、フィンランド、クロアチアに続き、保守右派と極右が連立する欧州4カ国目となる。2027年にはフランスでも大統領選があり、世論調査ではRNのマリーヌ・ルペンが有力候補、決選投票の対抗馬として急進左派のジャンリュック・メランションが名を挙げられている。極右と急進左派の対決が現実味を帯びること自体、伝統的な中道政党への信頼が徐々に失われていることの表れだと記事は指摘する。

この流れをアメリカはどう見ているか。手がかりは、トランプ大統領がサンチェスについて「スペインは問題だ」と述べた一言にある。背景にあるのは、サンチェスが米国の求める防衛費GDP比5%への引き上げを拒み、中国と良好な関係を保ち、イスラエルのネタニヤフ政権をジェノサイドだと公然と非難したことだ。つまりアメリカの視線は、ヨーロッパの急進勢力が国内制度にどう組み込まれるかという問題よりも、同盟国が安全保障や対中姿勢で足並みをそろえるかどうかに向いている。同じヨーロッパの政治変動を見ても、国家の内側の権力配分を問うドイツ的な視点と、同盟の外側での振る舞いを問うアメリカ的な視点は、驚くほどすれ違っている。

日本の読者にとって、この構図はやや遠い話に聞こえるかもしれない。日本では、急進勢力が警察や公務員人事を掌握する事態というより、特定の政権が長期にわたり続くことで代表性やチェック機能そのものが弱まるのではないか、という形で議論されることが多いとされる。つまり問いの立て方が違う。ヨーロッパでは「新しく台頭した急進勢力に制度をどこまで渡すか」が争点になるのに対し、日本で語られやすいのは「同じ勢力が長く続くことで、制度のチェック機能が緩んでいないか」という点だ、と言えるかもしれない。どちらも民主主義の自己点検の形であることに変わりはないが、警戒の矛先はまったく違う方向を向いている。

この先どうなるか。ドイツでは12月、AfDのジークムントが州政府首班に就くには他党から最低3人の離反者の支持が必要だが、これまでAfDとの協力を受け入れた政党はないという。フランスではヴィッテルスハイムの判決に対し、1カ月以内なら国務院への控訴が可能で、無効が確定すれば3カ月以内に再選挙が行われる。スペインの選挙結果は11月29日に判明し、それが2027年のフランス、ギリシャ、ポーランド、イタリアの選挙の空気を先取りすることになるだろう。制度は、急進勢力の票を拒むことはできない。できるのは、その先で何を任せ、何を任せないかを、手続きとルールを通じて線引きすることだけだ。

その線引きは、有権者の意思を制限する行為なのか、それとも民主主義そのものを守る行為なのか。あなたなら、どちらの立場に立つだろうか。

出典

  • franceinfo (titres):Avec des élections anticipées en novembre, l'Espagne va ouvrir un cycle électoral en Europe qui pourrait changer le rapport de force au sein de l'UE (2026/10/7)
  • franceinfo (titres):Le Rassemblement national fait son entrée dans les instances du Sénat, une première dans l'histoire de la Ve République (2026/10/6)
  • franceinfo (titres):Après la victoire de l'AfD en Saxe-Anhalt, autorités et spécialistes allemands s'inquiètent de voir un gouvernement d'extrême droite diriger cette région (2026/10/6)
  • franceinfo (titres):Le tribunal administratif de Strasbourg annule les élections municipales de Wittelsheim, seule ville détenue par le Rassemblement national en Alsace (2026/10/6)
  • franceinfo (titres):En Allemagne, l'AfD accède à la présidence d'un Parlement régional, une première pour l'extrême droite depuis 1945 (2026/10/6)

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