
「国債が企業より高い金利」の国で、予算は誰のものか――フランスの5%と、市場の信頼という請求書
LVMHのような企業のほうが、フランス国家より低い金利で資金を借りている。RFIが10月15日に伝えたところでは、CAC 40の複数の企業がそうした状態にある。一般に国は民間企業より安全だと見なされる。だからこそ、この逆転はフランス国内で小さくない衝撃として受け止められている。
この記事では、この数字を入り口に、一つの問いを考えたい。国債の利回りや格付けという「市場の信頼」は、民主的に決めるはずの予算や負担の配分を、どこまで縛ってよいのか。
5%という数字が、一週間で語り始めたこと
まず事実を確認する。フランスの10年国債の利回りは、10月20日に5%を超えた。2002年以来のことだという。その2日後には、ドイツとの利回り差(スプレッド)が174ベーシスポイントまで広がった。これは2011年以来の水準である。
背景にある数字も並べておく。国立統計経済研究所(Insee)によれば、フランスの債務は2025年末時点で3600 milliards d'eurosを超え、GDPのほぼ120%に達した。債務返済費は今年74 milliards d'eurosで、教育や国防を上回る国家予算の最大項目になっている。会計検査院は、債務負担が来年90 milliards d'eurosを超え、国民教育予算を上回ると警告した。さらに欧州中央銀行(ECB)の数字では、フランス国債の半分以上を外国の投資家が保有している。
10月17日の土曜日には、生活費の高騰に抗議するデモがあり、その後に破壊や略奪が起きた。政府によれば3,000店舗が被害を受けた。RFIは、この光景が「国が炎上し、制御不能になっている」という印象を投資家に与えかねないと指摘する。観光への影響よりも、投資家から見た国のイメージが問題だというのである。
ここで見過ごされがちなのは、路上の混乱と国債利回りが、同じ一本の線でつながって語られている点だ。デモの要求は購買力である。しかし政府は2027年の財政赤字を5%に抑えるため、43 milliards d'eurosの歳出削減を目指している。一方で、企業向けの公的支援には手をつけない姿勢だ。企業向け支援は2024年に166 milliards d'eurosで、公的赤字とほぼ同じ規模だったと財務省の数字が示している。
フランスでは、これは「財政」の話であると同時に「政治」の話として語られる
フランスの議論で目を引くのは、市場の評価が、数字そのものよりも「決められるかどうか」への評価として語られる点だ。
Euronextの代表執行役員会長ステファン・ブージナンは、franceinfoの番組で、格付け機関は長期的な視点を重視すると述べた。見るのは十年後に債務が返済可能かどうかだという。そのうえで、赤字と債務の軌道を取り戻すための「意思決定プロセスが機能しているか」も問われると語っている。Moody'sの評価は同日夕刻に公表される予定だったが、その結果は今回参照した素材には含まれていない。
つまり市場が見ているのは、赤字の額だけではない。その額を改善する意思決定が、政治の仕組みの中で実際に成り立つかどうかである。RFIによれば、国民議会には過半数を持つ勢力がなく、2027年予算を年末までに可決するのは容易ではない。政府は憲法49.3条による押し通しの可能性も排除していない。しかも大統領選挙を控えており、誰が選ばれるかで財政の道筋は大きく変わる。RFIは、いずれにせよ数年間の緊縮が見込まれると書いている。
反応は割れている。フランス銀行の総裁は「フランスはギリシャではない」と述べた。ローラン・レスキュール経済相は、国債を市場で発行することに問題はないとしつつ、追加コストは警告のサインだとした。ECBは、セーフティーネットはないと言い、解決の道は「まず何よりもフランス自身の中にある」と警告した。France Interのテーブルでも、ギリシャ危機の影を指摘する声と、楽観的な分析が並んで紹介されている。
ここまでが報じられた事実である。以下は私の解釈になる。
ECBの「セーフティーネットはない」という言葉は、財政の問題を各国の民主的な決定に差し戻す響きを持つ。同時に、その決定の質を市場が採点し、採点結果がまた次の選択肢を狭めるという構図も見える。選挙で選ばれた議会が予算を決めるのが原則だとして、その議会の決定は、金利という形で毎日投票している投資家の審査にもさらされているわけだ。
「FROGS」という呼び名が映すもの
RFIは、英語圏の市場関係者がフランスにFROGSという略称を与えたと紹介している。「規模が過大なフランスの政府と社会保障」を意味するという。
この呼び名は、財政の問題を「大きな政府と手厚い社会保障の代償」として読む視線を示している。ただし、これは市場側の一つの見方である。フランスの国内では、同じ数字が違う読み方をされている。たとえば会計検査院が教育予算との比較を持ち出したのは、利払いが学校に回るはずの資源を食っていると見せる語り方である。一方、デモの側から見れば、歳出削減は自分たちの生活に降りかかる負担に見える。そして企業向け支援は削られない。
私の読みでは、ここに緊張の核心がある。「信頼」という言葉は中立的に聞こえる。しかし信頼を回復するための費用は、誰かが具体的に負担する。増税か、歳出削減か、あるいは企業支援の見直しか。その配分は、本来は政治が争って決める領域のはずだ。
インドネシアの11%下落が教えてくれること
別の場所で起きた出来事も、この構図を補助線として照らす。10月16日、インドネシアのジャカルタ総合株価指数は、米系評価会社MSCIの発表を受けて朝に約11%急落した。MSCIは、株式の透明性や協調取引の疑いを理由に、同国を新興市場から自律市場へ再分類する案を検討するための協議を始めると発表した。1998年以来の取引日での最大下落だった。
インドネシア当局は4月に改革を完了したと主張していた。それでも、評価する側が「十分な進展が見られない」と判断した。MSCIの指数に連動するファンドが売却に動く可能性が指摘されている。
フランスとインドネシアは、制度も経済の段階も違う。同列には論じられない。ただ、外部の評価者の判断が、自国の政策や制度改革の成否を実質的に左右しうるという点は共通して見える。しかも評価者は、その国の有権者に責任を負っているわけではない。
日本と米国の読者は、これをどう受け取るだろうか
日本の読者にとって、この話は他人事に聞こえるかもしれない。ただ、日本でも財政規律と公共サービスの優先順位は繰り返し議論されてきたと一般に言われる。国債の利回りや格付けが話題になるとき、「市場が許さない」という言い方で議論が締められることも少なくないとされる。
ここでフランスの事例が示すのは、「許さない」と言われる側の民主的手続きの重みである。国民議会が過半数を欠き、大統領選挙の年で、街頭では購買力の要求が噴出している。そうした条件下では、市場が望む処方箋を採用するかどうかは、技術的な問題ではなく政治的な問題になる。日本の読者に問いたいのは、財政の持続性を語るとき、その議論は誰が負担を決めるかという手続きの話と一緒になされているか、ということだ。
米国については、事実として書ける材料が今回の素材にない。そのため具体的な状況には触れない。ただ一般論としては、投資家の評価を政策判断にどこまで反映させるべきかという問いは、多くの民主国家で共有されうるものだ。市場の規律を重視する立場と、負担の配分は有権者が決めるべきだという立場が、どの国でも対立する可能性がある。
今後を見通す:試されるのは数字よりも手続きの正統性
今後の展開について、確定的なことは言えない。以下は、素材から読み取れる範囲での見通しである。
まず目先の焦点は、年末までに2027年予算が成立するかどうかだ。49.3条が使われるのか、議会内の妥協が成り立つのかで、市場の受け止めは変わりうる。次に、10月17日の次の週末に予告された「第2幕」のデモがどうなるか。RFIは、混乱が繰り返されれば影響が深刻になりうると指摘している。そして大統領選挙である。
RFIが描く悪循環は、利払いのために借り入れが増え、金利上昇が経済活動を鈍らせ、税収が減る、というものだ。この循環が回り始めれば、歳出削減や増税の圧力は強まる。そのとき、負担の決め方が不透明なままだと、「市場に押し切られた」という感覚が社会に残るかもしれない。これは推測だが、財政の数字を整える作業と同じくらい、決定の過程が納得されるものであるかが、中長期的な安定を左右するように思える。
一方で、楽観的な材料も素材にはある。RFIによれば、フランスは欧州で最も魅力的な国という地位を7年連続で保っている。ギリシャのような事態には「現時点では至っていない」というのが、複数の当事者の見方でもある。
信頼の費用を、誰が決めるのか
最後に問いを残したい。
市場が求める「信頼」には、費用がかかる。利回りが5%を超え、債務返済費が教育や国防を上回るとき、その費用はたしかに現実のものだ。しかし、その費用を誰が、どの順序で、どんな説明のもとに負担するかは、数字からは導けない。
企業向け支援を守り、歳出削減を進めるという選択は、市場にどう映り、有権者にどう映るのか。評価機関の判断を重く受け止めることと、民主的な決定を守ることは、両立できるのか。
あなたの国で、同じ問いが突きつけられたら、市場が求める「信頼」の費用を、誰が決め、誰が負うべきでしょうか。
出典
- Radio France Économie:Un taux d'emprunt qui dépasse les 5% "c'est très grave", explique le président du directoire d'Euronext (2026/10/24)
- Radio France Économie:Crise sociale, défiance des marchés, perspectives négatives... La France est-elle au bord de la faillite ? (2026/10/24)
- RFI Économie:Aujourd'hui l'économie - La France, «homme malade» de l'Europe? (2026/10/15)
- RFI Économie:Indonésie: la Bourse de Jakarta dégringole de 11% après l'annonce d'une possible reclassification (2026/10/16)
- RFI Économie:Aujourd'hui l'économie - Pourquoi la crise politique et sociale pourrait peser sur la capacité d’emprunt de la France (2026/10/20)