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「584日」と「80」――フランスの50代と家計の10月が示す、景気の数字が届かない場所

56歳のリオネルは、リモージュで新しい仕事を探している。面接で向き合ったのは26歳の採用担当者で、「なぜ働きたいのか」と尋ねられたという。彼は「自分がもう賞味期限切れになったような気がします」と語る。

この場面は一人の苦い経験にとどまらない。フランスでは50歳を超える求職者が、平均で584日を超えて失業状態にとどまっているとされる。1年半を超える長さだ。景気が良いか悪いかを成長率や失業者の数で語るとき、この「584日」という時間は、そこからこぼれ落ちやすい。

同じ週に、家計の側からも数字が出た。10月27日、Insee(国立統計経済研究所)が発表した10月の家計信頼感指数は80。1か月で5ポイント下がり、2013年6月以来の低さとなった。長期平均は100である。

「景気」を測る物差しを、二つ並べてみる

ここで確認しておきたいのは、Inseeの指数がもともと「実感」を数値にしたものだということだ。約2,000世帯から、9月25日から10月19日にかけて集めた回答がもとになっている。実感を数値にしたこの指標が、いま大きく沈んでいる。

内訳を見ると、落ち込みの主因は家計が自分の財政状況をどう見ているかだった。今後の家計状況に関する意見収支(肯定的な回答と否定的な回答の差)は9ポイント、直近の家計状況は6ポイント下がっている。フランスの今後の生活水準への見方も6ポイント低下した。直近の生活水準への見方は3ポイント下がり、調査が始まった1972年10月以降で最低だとInseeは指摘している。

失業への懸念も強まっている。失業の動向に関する予想の意見収支は5ポイント上昇し、長期平均からさらに離れた。物価についても、過去12か月で大きく上がったと感じる世帯が増え、意見収支は8ポイント上昇した。9月の6ポイント上昇に続く動きで、今後12か月のインフレ予想も2ポイント上がっている。

もっとも、数字は一方向だけを指しているわけではない。貯蓄をめぐる環境の指標は2ポイント下がって118だが、歴史的な平均は大きく上回る。Inseeはここを「比較的良好」と表現した。ただし、貯蓄に適した時期だと考える世帯は2か月連続で減り(6ポイント低下)、将来の貯蓄能力への見方も3ポイント下がった。

事実として言えるのはここまでだ。以下は私の読みである。

貯蓄の環境が平均より良く、同時に生活水準への見方が過去最低という並びは、「余裕があるかどうか」と「先が見えるかどうか」が別の問題であることを示唆しているように見える。ただ、この指数だけでは、どの層がどう感じているのかまでは分からない。平均値の背後に世帯ごとの差があるはずだ、という推測にとどまる。

失業の「長さ」と、年金の「少なさ」がつなぐもの

リモージュのリオネルの話に戻ろう。50歳以上の就職を支援するサイトの創設者ヴァレリー・グリュオは、50代が「高くつく」「定年が近すぎる」と見られがちだと指摘する。一方で彼女は、シニアは研修やコーチングをほとんど必要とせず、専門技能や人脈も持ち込むため、若手よりずっと早く戦力になると反論する。従業員10人未満の零細企業は、この点をよく理解しているという。

彼女の助言は具体的だ。家族や友人など周囲のつながりを使うこと。1分間の自己紹介を用意すること。準備にあたっては、市役所の雇用支援サービスやFrance Travailに相談し、AIも使えるという。

この助言は実用的だが、読み方には注意が要る。584日という長さの原因を、構造ではなく個人の準備に求めているわけではない。ただ、助言の中身が「自分で動く方法」に集まるのは、採用側の偏見が簡単には変わらないことの裏返しにも見える。これも私の解釈である。

仕事の問題は、年金の問題とつながっている。アヌシー近郊に住むマルティーヌは、16歳から働き、失業した期間は一度もなく、産休さえ取っていないと話す。それでも「年金は本当にわずかです」。スイスの会社で働き、通勤は片道1時間30分。疲労をにじませる彼女の言葉は、年金だけでは足りず、働いて収入を補う必要があることを伝えている。

そこに制度の変化が重なる。2027年1月から新しい制限規則が適用され、最初の年金支給開始日が2027年1月1日以降の人は、67歳になる前に年金と仕事を併用すると不利な影響を受ける。長く失業するリスクを抱えながら、年金も思うように補えない。その二重の狭さが、先ほどの生活水準の最低値とどう響き合うのか。因果を断定する材料は記事にないが、少なくとも同じ方向を向いた不安だとは言えるだろう。

数字に現れにくい「働く条件」の話

今回の関連ニュースには、一見すると景気と関係なさそうなものも混じっていた。だが、「実感」を考える補助線として並べると、見えてくるものがある。

建設業の職人と中小企業を束ねるCAPEBは、62,000の会員が54万人を雇用し、建設部門の従業員のほぼ半数にあたるという。会長のジャン=クリストフ・リポンは、ラジオ番組で「私たちは四年間、活動の純減を経験している」と語った。この発言の詳しい中身は、手元の記事からは分からない。ただ、先ほどのグリュオが零細企業をシニア採用の受け皿として挙げていたことを思い出すと、こうした中小の現場の活動が縮むことは、仕事を探す人の選択肢にも関わってくる可能性がある。これは推測だ。

労働紛争を裁くプリュドム(労働審判)の話もある。パリには832名の審判員がいて、労使の代表が同数で、非専門家として判断を下す。弁護士のサラ・ベルリエは、20年前は「労働者が常に勝つ」と見られていたが、今は見方が逆転しつつあり、労働者が勝訴しやすいとは言い難いと語る。ここでも、職場の力関係をめぐる人々の通念が変わりつつあることが読み取れる。

さらに、日本の読者にとって少し複雑なのが『ドラゴンボール』だ。フランス語版で長年悟空やブルマなどを演じてきた声優たちが、新作『Dragon Ball Daima』(Gulliで11月4日放送開始)に自分たちが起用されないのではないかと訴えた。ブリジット・ルコルディエは、日本の制作会社東映アニメーションとの話し合いは自分たちを引き延ばし、交代させるためだったと確信するに至ったと語る。新キャストはベルギーで選ばれ、吹き替えの費用が安いからだとも述べた。同時に彼女たちは「もっとお金を求めていたわけではない」と強調している。争点にしているのは、自分の仕事や演じる役について以前のように語れなくなることや、東映の許可なくイベントに出られなくなることなど、契約条件だ。

なお、これは声優側の主張であり、東映側の説明は記事に出てこない点は押さえておきたい。それでも、この訴えは、働く人の実感が賃金の額だけでは決まらないことをよく示している。仕事にどんな裁量が残るか、積み上げた年月が評価されるか。リオネルの「賞味期限切れ」という言葉と、声優たちの「私たち抜きで進む」という言葉は、構造こそ違うが、どこか近い響きを持つ。

日本では、アメリカでは

ここから先は、今回の素材に根拠がない領域なので、数字や具体例は挙げずに述べる。

日本でも、年齢によって採用の機会に差があると言われることは多い。また、平均賃金や景気指標が改善していても、家計の余裕は世帯によってかなり違う、という指摘も一般にある。フランスの記事は、その感覚が国境を越えて共有されうることを示している。

私自身は、フランスでは統計機関が「家計の実感」そのものを毎月の公式な数字にしていることに、静かな面白さを感じた。実感を数値として扱う社会では、「景気は良いのに暮らしが苦しい」という感覚が、政策議論の俎上に載りやすいのかもしれない。これは推測で、日本との優劣を言いたいわけではない。

アメリカについては、良好な経済指標と生活費の負担との隔たりが語られることが多い、とされる。ただ、今回の素材にアメリカの記事は含まれていないため、数字は書けない。欧州とアメリカに共通するのは、国全体の指標と個々の家計の感覚が、同じ方向に動くとは限らないという問いである。

誰の暮らしで、成果を測るのか

今後を見通すなら、見るべき点は三つある。ひとつは、Inseeの次の調査で、生活水準や失業への見方がさらに悪化するのか、持ち直すのかだ。もうひとつは、2027年1月に始まる年金と仕事の併用ルールが、実際に50代以降の働き方をどう変えるのか。三つ目は、中小企業の活動の縮小が、採用の場にどう表れるのかである。

経済政策の成果を、成長率で測るのか、再就職までの日数で測るのか、あるいは月末に安心して暮らせるかどうかで測るのか。どの物差しを選ぶかによって、優先される支援の姿は変わるだろう。

最後に、あなたに問いたい。「景気が良い」という数字を聞いたとき、それはあなたの仕事と家計の実感に重なっていますか。もし重ならないとしたら、その隙間には何が入っているのでしょうか。

出典

  • Radio France Économie:Chercher du travail après 50 ans : comment valoriser son expérience et convaincre les recruteurs ? (2026/10/27)
  • Radio France Économie:Jean-Christophe Repon : "Nous vivons depuis quatre ans un recul d'activité net" (2026/10/27)
  • Radio France Économie:Des juges pas comme les autres : épisode 2/4 du podcast Prud’hommes, un baromètre social | France Culture (2026/10/28)
  • franceinfo (titres):Les doubleurs français de "Dragon Ball" inquiets de ne pas être au casting de la nouvelle série (2026/10/27)
  • franceinfo (titres):Hausse des prix, inquiétudes liées au chômage et à l'inflation… La confiance des ménages mesurée en octobre est au plus bas depuis juin 2013, annonce l'Insee (2026/10/27)

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