「払える人」より「逃げられる人」が問われている:富裕税、物価高、価格交渉をつなぐ一本の線
経済

「払える人」より「逃げられる人」が問われている:富裕税、物価高、価格交渉をつなぐ一本の線

セルゲイ・ブリンが毎日100万ドルを使い続けても、資産を使い果たすまでに約700年かかる。フランスのラジオ番組が、カリフォルニア州の富裕層課税案を紹介する中で持ち出した例えだ。推定資産は2500億ドルで、世界4位。もちろん、そこから生まれる利息は計算に入っていない。

この数字が突きつけるのは、「お金持ちはたくさん持っている」という当たり前の事実ではない。むしろ、負担という言葉が人によってまったく違う重さで響く、という事実のほうだろう。

今週フランスのメディアが伝えた五つのニュースは、一見すると別々の話だ。カリフォルニアの住民投票、米国のインフレ、パリの財務経済省での価格交渉、フランス銀行元総裁の財政への警告、ロンドンを離れる大富豪。だが並べて読むと、同じ問いが浮かんでくる。経済力の差は、税や物価の負担にどう反映されるべきなのか。そして、その負担から離れられる人と離れられない人は、誰なのか。

5%の税を前に、億万長者たちが選んだ三つの道

まず、カリフォルニアの話から始めよう。11月3日の米中間選挙と同時に、同州の有権者約2300万人が「proposition 40」に投票する。資産10億ドル超の州内居住者に、一度限りで5%を課す案だ。支持者には、フランス系米国人の経済学者ガブリエル・ズクマンらがいる。彼らは約1000億ドルの税収を見込み、その大半を医療に充てるとしている。

背景には財源の事情がある。同州には200〜250人の億万長者がいて、資産の合計は約2兆ドル。2023年の9000億ドルから大きく膨らんだという。一方、低所得者向け医療保険Medi-Calは住民の約3人に1人が対象だが、連邦資金が年間およそ300億ドル減る見通しだ。資産が膨らむ層と、公共サービスの財源が細る側とが、同じ州の中で向き合っている。

億万長者たちの反応は、記事を読む限り一枚岩ではない。

ブリンは、この税の阻止だけを目的とする団体に1億ドル超を提供した。さらに、対抗する二つの提案にも資金を出している。一つは新たな特別負担金の導入案に監査を義務づけるもの、もう一つは個人資産への新たな課税を禁じるものだ。記事によれば、矛盾する二つの法律が可決された場合は得票数の多いほうが優先される。つまり、課税案を直接否決するだけでなく、可決されても無効化できる仕組みまで用意しているわけだ。投票1週間前の世論調査では賛成が2〜6ポイントリードしているが、結果は分からない。

Nvidiaのジェンスン・フアンは、当初から自分の負担分を払う用意があると述べている。額は70億〜80億ドルと推定される。

そして最も示唆的なのが、ザッカーバーグの対応だ。資産の大半はMetaの株式で、現金ではない。120億ドルの税を払うために株を大量に売れば、AI競争のさなかに自社への支配力が薄れかねない。当初はパロアルトの自宅を売ってカリフォルニアを離れることも検討していたという。そこでMetaの取締役会は、新たな特別株の発行を承認した。この株を売れば納税でき、経営権は失わずに済む。見返りとして、ザッカーバーグは今後8年間、同州にとどまると約束した。

ズクマンは「億万長者が支配権を失うという、いかにもらしい問題は、煙幕にすぎない」と述べている。

ここまでは報じられた事実だ。ここから先は筆者の読みになる。ここで見えるのは、課税への賛否というより、「負担をどの形に変換できるか」の差ではないだろうか。移住をちらつかせる、対抗提案に資金を出す、株式の設計を変える。どれも、一般の納税者には手の届かない選択肢だ。課税額が同じでも、負担の実質が人によって違ってくる。

ガソリンスタンドの値札には、交渉の余地がない

同じ米国のもう一つのニュースは、反対側の景色を映している。10月の物価上昇率は前年同月比3.7%。トランプ大統領は購買力を最優先課題に掲げて復帰したが、政権の目標は年2%だった。記事は、イランとの戦争による中東の不安定化でエネルギー価格が急騰し、それが幅広い物価に波及したと伝えている。ガソリン、とくに軽油は記録的な水準に達し、運輸、農業、建設などが直接の影響を受けた。航空券も年初より大幅に高い。

Fedは政策金利を引き上げざるを得ず、借入コストが家計にのしかかる。賃金は上がっているが、物価の圧力を補うには足りないという。米国経済全体は比較的好調なのに、自分の暮らしが良くなったと感じられない人が多い。そこで民主党は「affordability(手ごろな価格で買えるか)」を争点にした。

億万長者が税率や居住地を「選べる」のに対し、ガソリンスタンドの値札の前で交渉できる人はほとんどいない。同じ「負担」でも、片方は設計の対象で、もう片方は受け入れるしかない対象である。

フランスの価格交渉のニュースは、この構図を別の角度から見せてくれる。10月28日、パリの財務経済省(ベルシー)で、価格決定の年次交渉に向けた準備会が開かれる予定だ。ところが、商業・流通連盟は、議題に二点が含まれなければ参加しないと明言している。一つは農業原材料のコストの透明性、もう一つは中小企業と大企業の扱いの差別化だ。

記事は短く、各当事者の言い分を細かくは伝えていない。それでも、この争点の立て方は興味深い。誰がどれだけコストを負担し、誰が価格を決められるのか。その情報が見えないことが問題にされているからだ。そして「中小と大企業の扱い」が議題に上がること自体、交渉力の非対称が前提として共有されている印象を与える。

米国の富豪が税を「避ける力」を持つように、サプライチェーンの中にも、価格転嫁を「押し返す力」を持つ者と持たない者がいる。最終的な消費者は、その両方の外側にいる。

出ていける人がいる国は、何を問われるのか

英国の事例は、この「選べる力」を数字で示している。Bloombergの調査によれば、過去2年間に英国を離れたか関係を縮小した億万長者や富裕な一族の資産は、合計1600億ドルに達する。この額は、いま英国に住む英国人億万長者の資産総額を上回るという。ただし記事は、これが英国経済から1600億ドルが引き揚げられた意味ではないと断っている。

理由として挙がるのは、2025年4月に労働党政権が廃止した「non-dom」制度や、新たな措置への懸念だ。同制度は、一部の裕福な外国人居住者に、海外所得などで税制上の優遇を認めていた。移転先としてはスイス、モナコ、アラブ首長国連邦が挙げられている。政府の統計では、所得上位1%が所得税収の約27%を負担している。出ていく人が少数でも、財政への影響は小さくないということだ。

ロンドンの最高級不動産はSavillsのデータで、2014年のピークから約27%下落し、インフレ調整後では49%超の下落になる。ただし記事は、Brexit、パンデミック、不動産税も影響したとして、大富豪の流出だけでは説明できないと慎重だ。シティについても、銀行、市場、専門家のネットワークという強みは残るとし、衰退を断定していない。

私がここで注目したいのは、英国政府に突きつけられた課題の言い方である。「税の公平性」と「国際的な魅力」の両立。この二つが並ぶとき、公平性はしばしば、動ける人の機嫌を損ねない範囲に押し込められてしまう。逆に言えば、動けない人、つまり給与から天引きされ、日々の買い物で物価を払う人の負担は、制度設計の前提として固定されやすい。これは記事が述べたことではなく、筆者の解釈だ。

「財源がない」と言うとき、誰の財布を想定しているのか

フランスの議論に戻ろう。フランス銀行の元総裁フランソワ・ヴィレロワ・ド・ガローは月曜日、France Interの番組で、高校生たちの「予算がない中での正当な要求」に対し、解決策を「創造的」に探すよう呼びかけた。「財源は追加されていない」と強調し、若い世代の肩にのしかかる債務の締め付けを警告している。

高校生が何を求めているのかは、手元の記事からは分からない。ただ、「正当だが財源がない」という言い方には、財源を誰が負担するのかという問いが、まだ答えのないまま置かれている。債務を増やせば次世代の負担になり、増税すれば、動ける人は動き、動けない人が残される。カリフォルニアでは医療財源をめぐって5%の一度限りの課税が問われ、英国では富裕層の流出が税収を揺さぶる。フランスでは「創造的に」という言葉が、その袋小路を指しているように読める。

日本の読者にとっての「負担」の見え方

日本では、税と物価がそれぞれ別の棚で語られることが多い、と一般に言われる。税は政府の問題、物価は市場や企業の問題、という分け方だ。しかし今回の五つのニュースは、この二つを一本の線で結んでいる。税を避けられる人は居住地や資産の形を選べる。価格を押し返せる人は交渉の場に座れる。避けられない人は、レシートと給与明細で負担を受け取る。

日本にも当てはまるかどうかは、慎重に考える必要がある。本稿の材料には日本の具体的なデータがないため、断定はしない。ただ、負担の議論を「所得のどれだけが取られるか」だけで測っていると、移動の自由、交渉力、法的設計に使える資源の差という、もう一つの軸が見えにくくなる可能性はある。

これから見ておきたいこと

近い将来の焦点は三つある。一つ目は、カリフォルニアの投票結果と、対抗提案との優先関係がどう決着するか。二つ目は、10月28日のベルシーでの準備会で、価格の透明性と企業規模による扱いの違いが議題に入るのか。三つ目は、英国のように富裕層の移動が現実の数字になったとき、各国が「公平」と「魅力」の天秤をどう調整するのか。いずれも結果は未確定で、ここで予測を断言することはできない。

ただ、一つだけ言えるのは、「誰が負担できるか」の議論が、「誰が負担から離れられるか」の議論と切り離せなくなっていることだ。

負担する力は、所得の額だけで測れるのでしょうか。あなたが毎日払っているものの中で、「交渉できないもの」はいくつありますか。

出典

  • Radio France Économie:Quand la Silicon Valley se mobilise contre un projet d'impôt sur les gros patrimoines (2026/10/26)
  • Radio France Économie:Donald Trump n'a pas tenu ses promesses sur le pouvoir d'achat (2026/10/26)
  • Radio France Économie:Négociations annuelles sur la fixation des prix : une réunion de préparation à Bercy avec la grande distribution s'annonce houleuse (2026/10/26)
  • Radio France Économie:Mobilisation lycéenne : François Villeroy de Galhau appelle à "être créatif" pour trouver des solutions "sans moyens" (2026/10/26)
  • RFI Économie:Aujourd'hui l'économie - Royaume-Uni: pourquoi les milliardaires quittent Londres (2026/10/26)

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