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5歳の女児が父の家で死んだ日、フランスは制度の何を見過ごしていたのか
社会

5歳の女児が父の家で死んだ日、フランスは制度の何を見過ごしていたのか

9月22日火曜日、ロワール=エ=シェール県ブロワの一軒家で、5歳の女の子が死んでいるのが見つかった。父親は自分の首と体を刃物で複数回切りつけ、重篤な状態で発見された。検察官のステファン・ジャヴェ氏は、女児を「殺害した可能性が高い」のは父親だと述べた。

この家族には、すでに公的機関が関与していた。両親は2024年から別居しており、2025年9月からは少年裁判官の関与のもとで「在宅教育支援措置」が進められていた。女児は父親のもとで暮らし、学校には通わせてもらえていなかった。父親は同じ年、母親に悪意ある電話をかけたとして執行猶予付き禁錮6月の判決を受けている。警察関係者はフランス・テレビジョンに対し、母親のほうも女児への暴力を理由に訴えられていたと明かしたが、検察の公式発表はこの点に触れていない。学校からの連絡で異変に気づいた母親が元パートナーに連絡を取れず、警察に通報し、治安部隊が父親の自宅に向かった――その先に女児の遺体があった。

ここまでの事実を並べただけでも、ひとつの問いが浮かぶ。裁判所も、支援機関も、学校も、この家族に関わっていた。それでも最悪の事態は防げなかった。なぜだろうか。

同じ週、フランスではもうひとつの事件が報じられている。南東部ヴァール県の高速道路サービスエリアで、車の後部にプラスチック袋で隠された女性の遺体が見つかった。ニースで行方不明になっていたブラジル国籍の女性とみられ、運転していた元パートナーの男が身柄を拘束された。友人が行方不明届を出す前から、この男が女性のアパートから荷物を持って出てくるのを目撃した人がいた。部屋が「最近清掃された可能性がある」ことに気づいた人もいた。つまり、事件が起きる前後に、周囲の人間は何かがおかしいと感じていた。それでも、届け出が出され、警察が動き、事件が発覚するまでには時間がかかっている。

私はこれらの事件を「特殊な悲劇」として個別に読むべきではないと思う。むしろ、フランス社会がいままさに議論している法案の背景として読むべきだ。

実際、同じ週の月曜日、国民議会の委員会では、性暴力と家庭内暴力への刑事対応を強化する「包括法案」の審議が進んでいた。連続強姦や、強姦によって被害者が死亡した場合には禁錮30年という重い刑罰が導入される。計画性があった場合や録画された場合、同じ被害者への反復があった場合には新たな加重事由が設けられ、いわゆる「ロミオとジュリエット条項」――年齢差が5歳未満なら未成年との性的関係を自動的に強姦としない規定――は削除される方向にある。望まない性的画像を送りつける行為、いわゆる「ディックピック」も新たに処罰の対象になる。

そして制度面では、軽罪裁判所に性暴力・家庭内暴力を専門とする裁判官2人と検察官1人を配置し、告訴を不起訴にする前には必ず最低限の捜査――被害者と容疑者双方の聴取、証拠保全、ほかの被害者の捜索――を行うことが義務づけられる。司法警察内には専門部隊が新設され、検察官や予審判事はこれを使わなければならなくなる。法案は10月1日に本会議へ送られる予定だ。

この法案の設計思想を私なりに言い換えるなら、こうなる。暴力を「発覚してから裁く」対象としてではなく、「兆候の段階で捕まえる」対象として制度に組み込もうとしている。専門裁判官の配置も、告訴前の最低限の捜査の義務化も、要するに「たらい回しにしない」「見逃さない」ための仕組みだ。ブロワの事件で在宅教育支援措置が入っていたにもかかわらず最悪の結果を防げなかったという事実は、この法案が埋めようとしている隙間がどこにあるかを、皮肉にも同じ週に示してしまった格好になる。

もうひとつ見過ごされがちな論点がある。児童への近親姦と性的暴力を調査する独立委員会Ciiviseは、この法案の審議に合わせて、心的外傷への治療支援を「幼少期に被害を受けた成人」にも拡大するよう求めた。現行案は未成年者だけを対象としており、成人になってから被害を告白する人々を排除してしまうという指摘だ。Ciiviseによれば、被害の告白や治療の要請は平均して44歳ごろに行われるという。これは3万人を超える被害者からの聞き取りに基づく数字だ。トラウマによる記憶の欠落、恥、支配関係の継続――そうした力学のもとでは、被害は子ども時代のうちに語られるとは限らない。制度の対象年齢を「被害を受けた年齢」ではなく「被害を語る年齢」に合わせて設計し直すべきだという主張は、暴力を「子ども時代の出来事」として区切ってしまうことの危うさを突いている。

ここでパリの別の出来事に目を移してみたい。16区の幼稚園で、2歳の男児が課外保育の時間に付き添いなしで外に出て、500メートルを一人で歩き回った。発見したのは日本人観光客だった。トロカデロ広場付近で男児に気づき、カフェの店主が警察に通報した。ところが警察が男児の身元と行方不明の届け出を結びつけるまでに時間がかかり、母親が連絡を受けたのは1時間半後だったという。パリ市は謝罪し、職員3人を予防的に停職とした。

この事件は暴力事件ではない。しかし、私はここに同じ構造を見る。子どもの安全は、家庭の中だけでなく、学校や行政の「見守りの連鎖」のどこか一箇所が途切れただけで崩れる。ブロワの女児は在宅教育支援措置という「見守りの網」の中にいながら死んだ。パリの男児は保育という「見守りの網」からこぼれ落ちて、たまたま無事だった。網の存在そのものより、網の目のどこが緩んでいるかを点検する視点が要る、ということだろう。

フランスでこうした事件が起きるたびに強く感じるのは、家庭を「私的領域」として尊重する伝統と、暴力への公的介入を強化しようとする現在の法改正の動きが、正面からぶつかり合っているということだ。今回の包括法案が近親相姦の対象範囲を子孫やいとこにまで広げ、いとこ婚を禁止する方向に踏み込んでいるのも、家族という単位の内側にまで法が入り込むことを厭わない姿勢の表れだと私は読む。

日本ではどうだろうか。私は日本の家庭内暴力や児童虐待の対応について、このニュース群から具体的な制度比較をする材料を持たない。ただ、一般に家庭内の問題への介入は慎重であるべきだという感覚が強いとされることが多く、児童相談所や学校、警察の間の情報共有が自治体ごとに差があるという指摘は、しばしば聞かれる話ではある。フランスが専門裁判官や専門捜査部隊という「縦割りを横断する専門機関」で応じようとしているのに対し、日本の議論はどちらかといえば既存の縦割り機関同士の連携強化に重心があるように見える――これはニュースの範囲を超えた私の印象であり、断定はできない。

この法案が10月1日に本会議に送られたあと、実際にどこまで可決され、どこまで現場で機能するかは、これから注視すべき点だ。専門裁判官の配置や告訴前の最低限の捜査義務化は、人員と予算という現実的な制約とぶつかるだろう。Ciiviseが求める成人被害者への治療支援拡大が採用されるかどうかも、法案の性格を左右する分水嶺になる。

家庭という最も個人的な空間の中にある暴力を、社会はどこまで、どうやって覗き込むべきなのか。そして、覗き込む仕組みを作ったとしても、その網の目からこぼれ落ちる子どもをどう減らせるのか。ブロワの女児の死は、その問いに簡単な答えがないことを、痛切な形で私たちに突きつけている。あなたなら、この網をどう設計するだろうか。

出典

  • franceinfo (titres):Une enquête pour meurtre sur ex-conjoint ouverte après la découverte du corps d'une femme dans une voiture dans le Var (2026/9/23)
  • franceinfo (titres):Une fillette de 5 ans retrouvée morte à Blois, "vraisemblablement" tuée par son père selon le parquet (2026/9/22)
  • franceinfo (titres):Un enfant de 2 ans quitte son école et erre seul dans les rues de Paris, trois agents du périscolaire suspendus (2026/9/22)
  • franceinfo (titres):Les députés renforcent la répression des violences sexuelles lors de l'examen de la loi "intégrale" en commission (2026/9/22)
  • franceinfo (titres):Loi intégrale contre les violences sexuelles : la Ciivise demande que l'accès au parcours de soins soit étendu aux adultes victimes dans leur enfance (2026/9/22)

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