
バルデラの「若き日の発言」とマルセイユの一斉検挙、フランスが問い続ける「変わった」の中身
パリのある地区で、スコット(仮庵祭)のために設けられた木造の仮小屋が並ぶ通りを歩きながら、28歳のアンソニー氏はこう漏らした。「これは本当に私の心に響く。私はユダヤ教徒であり、受け入れられない。彼は二重の顔を使い分けているようだ」。彼が話していたのは、次期大統領選の最有力候補の一人とされる国民連合(RN)党首、ジョルダン・バルデラ氏のことだ。調査報道サイト、メディアパールが9月28日に報じたところによれば、バルデラ氏は2013年、国民戦線(当時、現RN)の若い活動家だった頃に反ユダヤ的な発言をしたとされる。
本人はこれを全面否定し、名誉毀損での提訴を表明した。メディアパールは今後数日以内に証拠を公表するとしており、真偽はまだ確定していない。だが興味深いのは、この一件がフランス社会でどう受け止められたか、その受け止め方そのものである。
マクロン大統領は9月30日、スペインへの国賓訪問中にこの報道に触れ、「極めて重大で、受け入れられない」と述べた。「反ユダヤ的な発言を決して受け入れることはない」とも語り、政治指導者は自らの立場を明確にすべきだと注文をつけた。同時に大統領は、選挙戦における「言葉の暴力」の常態化を嘆いた。念頭にあったのは、マリーヌ・ルペン氏が前日、メディアパールに対して「ケブラー製の防弾服を着ればいい」と発言したことだ。一つの報道が、党首の過去の発言だけでなく、選挙戦全体の言葉遣いの荒れ方までも照らし出した格好である。
では、疑惑の直接の当事者であるユダヤ人社会は、この件をどう見ているのか。フランス・アンフォがパリで取材した反応は、一枚岩ではなかった。クロード氏は発言そのものは「許されない」としながらも、情報の信憑性には留保を示し、「私は信じていない」と語った。さらに、16、17歳の頃の発言であれば「赦しは存在する」とも述べ、「若い頃に盗みを働いた人が、その後、警察官になることもある」と、更生の可能性にまで言及した。一方でアンソニー氏は、RNとユダヤ人社会の間に「信頼関係があったことは一度もない」と切り捨て、別の取材対象者は、ジャン=マリー・ルペン氏がかつてガス室を「歴史の一細部」と呼んだ過去に触れながら、「そのような発言を決して忘れることはできない」と語った。赦しを口にする者と、赦しを拒む者。同じ共同体の中に、これほど異なる時間の感覚が同居していること自体が、この社会が抱える記憶の重みを物語っているように見える。
ここで見過ごされてはならないのは、この疑惑がRNの「脱悪魔化」戦略が最も脆い部分を直撃したという点だ。RNはこの数年、党首を若く清潔なイメージのバルデラ氏に据え、極右政党としての過去との断絶を演出してきた。イスラエルのアミハイ・シクリ大臣(ディアスポラ・反ユダヤ主義撲滅担当)が今回いち早くバルデラ氏を擁護し、2025年にイスラエルを訪れた際の写真まで公開して「反ユダヤ主義に反対する発言をエルサレムで行った」と主張したのは、その脱悪魔化戦略が国境を越えて機能していたことの証でもある。RFIの報道によれば、この訪問自体が「欧州極右勢力を正統化しようとする動き」として批判されることもあったといい、当時イスラエルの多くの著名人がこのイベントへの参加を見合わせていたという事実も伝えられている。つまり、党首個人の「変化」の証明が、国境を越えた政治的シンボルの奪い合いの材料にもなっているのだ。
そしてこの疑惑と時を同じくして、パ=ド=カレー県グルネーでは別の出来事が起きていた。RN所属市長の下でスポーツ担当を務める市長補佐が、地元団体との公式会合で「White Lives Matter」と書かれたTシャツを着用していたことが、ICI Nordの報道で明らかになった。これは記事が説明する通り、黒人への警察暴力を告発する「Black Lives Matter」に対抗するために広められた、白人至上主義者のスローガンである。市はこの写真を一度削除し、スローガン部分が見えないよう切り取った別の写真に差し替えたが、元の写真はすでに報道機関の手に渡っていた。市議会野党は辞任を要求する声明を準備しているが、市長も県のRN代表者も取材に応じていない。
党首レベルの疑惑と、一地方の市長補佐のTシャツ。規模も重みも異なるこの二つの出来事を並べて考えると、一つの問いが浮かび上がる。政党の中枢が「変わった」と主張しても、末端で同じ古い記号が繰り返し現れるとき、その「変化」はどこまで組織全体に根を張ったものと言えるのか。マクロン大統領が求めた「立場の明確化」は、党首個人の弁明だけでは完結しない射程を持っているのかもしれない。
こうした現在進行形の疑惑と並んで、同じ週にフランス司法は、82年前の出来事に一つの決着をつけた。9月30日、国家テロ対策検察局は、1943年1月にナチスの決定とヴィシー政権の協力のもとマルセイユの旧港地区とサン・ジャン地区で行われた一斉検挙、略奪、建物破壊を「人道に対する罪」と正式に認定した。当局から「抵抗運動の巣窟」とみなされた地域が標的にされ、約2万人が影響を受け、1,600人が強制移送され、さらに数千人が一時的に収容された後、1,500棟の建物が破壊された。捜査では動員された警察・憲兵隊員1万2,000人と協力者部隊150人が特定されたが、全員が死亡しているか、具体的な関与を立証できなかったため、刑事責任を問う手続きは不起訴相当で終了した。
誰も裁かれない。それでもこの認定には意味があると、告訴した弁護士パスカル・ルオンゴ氏は語る。「これは明らかに象徴的な回復である。言葉によって、沈黙していた行為と苦痛を、どこかでいくらか癒やす強い象徴的行為だ」。検事のオリヴィエ・クリステン氏も、「規模がまったく桁外れの一斉検挙であるにもかかわらず、これらの事実は国民の間で比較的知られていない」と述べ、貧困層や移民が多く暮らしていたがゆえに標的にされたという構造そのものを、公的な記録として刻もうとした。刑事罰を科せなくても、「これは犯罪だった」と国家が言葉にすることには、独自の重さがある。
この認定と、バルデラ氏をめぐる疑惑は、一見無関係な事件に見えて、同じ土台の上に立っている。フランスでは、ヴィシー政権下での反ユダヤ主義的な国家犯罪の記憶が、現在の政治家の言動を測る恒常的な物差しとして機能している。だからこそ、クロード氏のように「赦し」を語る人がいても、その赦しは無条件ではなく、常に「本当にそうだったのか」という検証と隣り合わせにある。過去の犯罪に法的な決着をつけることと、現在の政治家の過去を検証することは、別の出来事でありながら、同じ「記憶をどう扱うか」という一つの態度の表れなのだろう。
こうした構図は、日本の読者にはやや距離のある話に映るかもしれない。日本にも政党や政治家の過去の発言をめぐる論争はあるが、それが特定の差別の歴史と結びつき、選挙のたびに繰り返し検証される、という構図は必ずしも一般的ではないと言われることが多い。一方で米国では、人種差別の歴史と現在の政治的立場が直接的に争点化される場面がしばしば見られるとされる。フランスの場合、ホロコーストという単一の、しかも国家が加担した歴史的犯罪が、今なお公的責任を測る基準であり続けている点に、この社会特有の緊張がある。
メディアパールが予告した「今後数日以内の新たな情報」が何を明らかにするのかは、まだ分からない。だが今回の一連の出来事が示しているのは、証拠が出揃う前から、社会がすでに「変化をどう検証するか」というルールに基づいて動いているということだ。若い頃の発言を赦す余地はあるのか、党首個人の弁明は組織全体の変化を保証するのか、そして法的な裁きが不可能になった過去の犯罪に、社会はどう向き合い続けるのか。
政党が過去と決別したと認めるには、言葉以外に何が必要なのだろうか。読者であるあなたなら、どんな証拠があれば「変わった」と信じられるだろうか。
出典
- franceinfo (titres):VIDEO. Ecrits antisémites attribués à Jordan Bardella : Emmanuel Macron juge "gravissimes et inacceptables" les propos rapportés par Mediapart (2026/10/1)
- franceinfo (titres):"On dirait qu'il joue un double jeu" : dans la communauté juive, peu de soutien pour Jordan Bardella après les propos antisémites révélés par Mediapart (2026/9/30)
- franceinfo (titres):Un adjoint à une maire RN du Pas-de-Calais arbore un t-shirt suprémaciste blanc, l'opposition réclame sa démission (2026/9/30)
- franceinfo (titres):La justice reconnaît comme "crime contre l'humanité" les rafles menées en 1943 à Marseille (2026/9/30)
- RFI France:Après les accusations d'antisémitisme, un ministre israélien prend la défense de Jordan Bardella (2026/9/30)