
17度の部屋で「罰を受けているよう」と彼女は言った――暖かさは家計の自己責任か
パリ近郊アニエール=シュル=セーヌに住む70代の退職者アニックは、取材に「今のところ暖房は使っていません。家の中は17度です」と答えた。11月、場合によっては12月まで、暖房を使い始めるのを待つつもりだという。書店員、その後は出版社で働き、66歳まで勤め上げた人である。住まいは1901年築で断熱性の低い古い建物で、彼女はいまもそこの借家人だ。
彼女の言葉でもっとも印象に残るのは、倹約の工夫よりも、そこに添えられた一言のほうだった。「ガスで暖房を使っているから罰を受けているようなものです。電気で暖房を使うのは構いませんが、大家さんが認めてくれません」。セーターを重ね着し、小さな電気ヒーターを買って一部屋だけで使っているという。
これは「節約上手な高齢者」の話として読めるだろうか。私にはむしろ、暖かさをめぐる責任の置き場所を問う場面に見える。以下では、フランスで11月1日に起きたガス価格の値上がりを手がかりに、この問いを考えてみたい。
「家計への重さ」を数字で見る
消費者団体Que Choisir Ensemble(旧UFC)の調査によると、フランス人の4人に3人が、ガス暖房の費用は家計への負担が大きすぎると考えている。同団体の消費動向観測所の責任者グレゴリー・カレは、franceinfoで調査結果を明らかにした。
背景にあるのは、天然ガスの基準販売価格の上昇だ。11月1日(日)に6,6%上がり、価格は税込で1MWhあたり194,90ユーロになった。1月の136,88ユーロ/MWhから、年初で見ると42,3%の上昇である。franceinfoは、この上昇に中東戦争の影響があったと伝えている。固定価格のプランを契約していない世帯では、平均で月12ユーロの値上がりとなる。
カレはガス暖房を使う大きな住宅について、年間の請求額が2021年の約1 000ユーロから、現在は2 700ユーロに増えたと語る。月12ユーロだけを見ると小さな額に思えるかもしれない。だが、積み重なった上昇の先に今回の値上がりがあることを考えると、人々の重さの感覚は理解しやすい。
アニエールで取材に応じた人々の声も、この感覚を裏づけている。ジャン=クロードは飲食業を退職した人で、2人の孫が来ているため、いまは暖房をつけている。ふだんは11月になってからだという。「妻と2人だけのときは少し控えます。日中は暖房を切ります。そうせざるを得ないんです」。年間では2 000ユーロと少しになると話す。子ども4人の父であるエズディーヌは、ガス代に月150ユーロ、電気代に80ユーロを払っており、「暮らしがだんだん高くなっています」と言う。
「選べる人」と「選べない人」のあいだ
ここで見過ごされがちな点がある。ガス料金の仕組みは、一見すると「消費者が賢く選ぶ」ことで負担を抑えられる設計になっている。
フランスでガスを使う1,000万世帯のうち、400万世帯が固定料金型、600万世帯が連動料金型である。固定料金型は契約期間中の料金が一定に保たれる。連動料金型はエネルギー規制委員会(CRE)の基準価格に応じて毎月変動する。Que Choisir Ensembleは、危機の間は固定料金型を契約するよう勧めている。franceinfoが国立エネルギー仲介機関の比較サイトで確認したところ、EDFとTotalEnergiesでは現在、固定料金型のほうが連動料金型より安かった。契約に解約の縛りはなく、供給会社の変更も無料だという。
約30種類の契約から定期的に比較するよう勧める声もある。同団体のクラリス・ベルジェは、世帯が供給会社や契約内容を十分に理解していないことも指摘している。
料金の変動リスクは、契約という形で個人が引き受けたり避けたりできる。これはフランスの制度の特徴だと言ってよい。だが、同じ記事群は、個人の選択が届かない領域があることも示している。
カレによれば、暖房設備の変更や断熱工事に踏み切れない大きな理由は、初期費用が高すぎることだ。とくに低所得世帯、賃貸住宅の住人、集合住宅の居住者が影響を受ける。「自分には決定権がない。集合住宅に住んでいるから、自分では決められない。これは全体で決めることだから」と言う人が多いという。アニックの「大家さんが認めてくれない」も、同じ構造の中にある。
ここから先は私の解釈になる。料金プランの選択は「市場の変動をどう引き受けるか」という問題で、断熱や暖房設備の更新は「住まいの性能を誰が変えられるか」という問題だ。前者は個人の努力で動かせても、後者は所有関係や集合住宅の合意に縛られる。「節約は自己責任」という言い方は、この二つを混ぜてしまう。アニックのように、努力する意思はあっても手段を持たない人が、あたかも努力不足であるかのように見えてしまう。
寒さに耐える動画が映すもの
SNSでは、暖房を点ける時期をできるだけ遅らせる挑戦が話題になっている。三枚のセーター、二足の靴下、ひざ掛け、ときには室内で帽子。「12月前にはラジエーターに触れない」といった目標を掲げる人もいて、コメント欄には「折れて暖房を点けた」と敗北を認める人もいる。
radiofranceの番組はこれを「時に微笑ましい」と評しつつ、背後にあるのは家計の中でのエネルギー費の重さだと述べている。近隣の部屋の熱で自分の部屋を温めようとする人や、集合住宅の共用暖房の再稼働を待つしかない人もいる。
同じ番組は、冷えへの耐久競争に歯止めをかける情報も添えていた。十分に暖まっていない住宅での生活は健康リスクをもたらし、湿気やカビの発生を促す可能性がある。環境・エネルギー庁(Ademe)は快適さを損なわない目安として、居間は19度、寝室は16〜17度を勧めている。数時間の外出なら完全に切らず、16〜17度程度に設定するほうがよいとしている。
この目安に照らすと、アニックの「17度」は寝室向けの数字で、居間の目安より低い。私はそれを彼女の落ち度だとは思わない。むしろ「暖房をどこまで抑えるか」が、遊びと必要のあいだで曖昧に揺れている点に注目したい。動画では「挑戦」として共有される行為が、同じ国の別の場所では「ほかに方法がないから暖房を弱める」ことになっている。カレは、一部の世帯が「熱的な快適さを犠牲にしている」と述べた。この言い方は、暖かさを贅沢品ではなく、犠牲にすると何かが失われるものとして扱っている。
フランスでの受け止め:生活費の怒りと、制度への不満
フランスの文脈で重要なのは、これが個々の家計の嘆きにとどまらず、街頭の怒りとも結びついていることだ。radiofranceによれば、生活費高騰に抗議するデモは全国各地で大規模に行われ、政府発表では32万人、主催団体は50万人とされた。パリでは、インターシンディカル側が20万人、当局が7万人と報告している。参加者には高校生や学生だけでなく、すでに働いている若者も多く、月末のやりくりに苦慮しているという。
政府はディーゼルの戦略在庫を解放する方針を決め、TotalEnergiesに続きLeclercが1リットルあたり21セントの値下げを発表した。Coopérative Uも同様の値下げを発表している。その同じ日に、ガス価格は標準価格(調理用・給水)で6.6%、暖房用で8.26%の上昇が報告された。radiofranceはこれを、現政権がエネルギー危機を抑える余地が限られていることを示すものと受け止めている。
政策への不満は、価格の水準だけでなく、制度の安定性にも向かっている。カレは、支援制度が6か月ごと、あるいはそれより短い間隔で変わるため、人々に助言するのが難しいと述べた。また、対象を絞った公的支援と並んで、事業者が設定する価格の規制強化も求めている。フランスではヒートポンプが他国より「かなり高い価格で」販売されていると指摘した点も、見逃せない。
生活面では、冬季休戦が11月1日に始まり、3月31日まで続くとされている。この間、居住者は原則として退去させられない。休戦中はガス・電力の供給停止も禁じられる。ただし未払いの場合、供給者は契約容量を縮小する権利を行使できるとされる。つまり、「止められないが、細くはできる」仕組みである。暖房を弱めるかどうかが、本人の意思とは別のところで決まり得ることを、この制度は示している。
日本ではどう見えるか、アメリカでは
日本について、今回のニュースから言えることはない。以下は一般に言われる通念の範囲での、読者への問いかけだ。
日本でも、光熱費を節約するために暖房を我慢する話は身近だとされる。重ね着や、使う部屋を限る工夫は、「暮らしの知恵」として語られることが多い。フランスの「12月まで暖房をつけない」動画を見て、親しみを覚えた人もいるかもしれない。だが、その親しみが危ういのは、節約を美徳として語る視線が、「そもそも住まいを変えられない人」の存在を隠しやすいからではないか。賃貸住宅では住人が断熱を自分で改修できるとは限らない、と一般に言われる。そこに目を向けると、アニックの「大家さんが認めてくれません」は、遠い国の話に聞こえなくなる。
アメリカについては、今回のニュースに根拠となる材料がほとんどない。radiofranceが、中間選挙を2日後に控えた米国で、カリフォルニア州の250人の大富豪を対象とする特別税の導入について有権者が投票すると伝えている程度だ。この情報から米国のエネルギー政策や暖房事情を論じることはできない。ただ、負担を誰がどう分け合うかを有権者が直接問われる場面があるという事実は、フランスで「支援制度が半年ごとに変わる」と嘆かれている状況と並べると、問いの立て方の違いを考える材料にはなる。
これから何が起きるのか
先行きは不透明だ。CREは、状況が年末までおおむね安定して推移した場合でも、平均で約135ユーロの値上がりを警戒している。「安定」しても上がる、というのが現時点の見立てである。
ここから先は推測になるが、論点は二つあると私は考える。一つは、料金を下げる支援だけでなく、住宅の断熱や暖房設備の更新といった、構造的な対策にどこまで踏み込むかだ。カレが指摘した「高すぎる初期費用」と「集合住宅での合意の難しさ」は、料金補助だけでは動かない。もう一つは、暖房を控える行為を「節約」ではなく「健康の問題」として扱えるかどうかである。Ademeの室温の目安や、湿気・カビのリスクという記述は、すでにその入り口に立っているように見える。
暖房を控える自由は、誰のものか
アニックは笑顔で話しながら、「これほど努力しなくてよい上の人たち」や政治家に怒りを感じていると語った。彼女は努力をしている。そのうえで「選択を迫られています」と言う。旅行に長く行っていないことも、その選択の一部だ。
カレの言うとおり、「暖房を弱める以外に方法がない」のだとすれば、それは自由な選択と呼べるのだろうか。料金プランを比べる自由、暖房を切る自由はある。だが、断熱を変える自由、暖房の方式を変える自由は、住まいの条件によって配られている。
あなたの暮らす部屋の暖かさは、どこまであなた自身が決められるものでしょうか。
出典
- franceinfo (titres):Trois Français sur quatre jugent le coût du chauffage au gaz trop élevé, selon un sondage de Que Choisir Ensemble (2026/11/2)
- Radio France Économie:"Pas de chauffage avant décembre !" : le défi des internautes pour réaliser des économies (2026/11/1)
- Radio France Économie:En pleine manifestations contre la vie chère, baisse aujourd'hui des prix du diesel en France mais hausse du prix du gaz (2026/11/1)
- franceinfo (titres):TEMOIGNAGES. "On est obligés de faire des choix" : confrontés à la hausse des prix du gaz, des habitants contraints de limiter leur chauffage (2026/11/1)
- franceinfo (titres):Tarif fixe ou indexé ? On vous explique comment s'y retrouver dans la jungle des prix du gaz (2026/11/1)