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保険料月90ユーロが払えない国で、「自己責任」は何を隠すのか
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保険料月90ユーロが払えない国で、「自己責任」は何を隠すのか

片道40分、往復80分。28歳のその男性は、毎日その道のりを警察の検問を避けながら運転する。フランス・テレビジョンの取材に応じた彼は、6カ月前から無保険で車を走らせている。「電車もバスも通らない田舎町で働いている。車で移動せざるを得ない」。収入は月1,600ユーロ、家賃は700ユーロ。事故で保険料が上がったあと、月90ユーロの保険料が払えなくなった。「生き延びるためです」と彼は言う。

この一人のドライバーの話は、決して特殊な例ではない。国家交通安全観測所によれば、フランスには約70万台の無保険車両がある。21歳の学生は、年間走行距離を実際より少なく申告して保険料を40ユーロ安くした。「家賃を差し引いた後の生活費は月50ユーロしかなかった。40ユーロは、ほぼ1カ月分の生活費」だからだ。もし事故を起こせば、被害者保証基金が被害者に先に補償を支払い、加害者には長期、場合によっては一生涯にわたる返済が課される。回収できない分の8割は、保険に加入しているすべてのドライバーが肩代わりする仕組みになっている。つまり、個人の「リスクを取る」という選択は、静かに社会全体のコストへと転化している。

ここで見過ごされがちなのは、この無保険運転という現象が、単独の「モラルの緩み」ではなく、もっと広い困窮の地図の一部だということだ。慈善団体レスト・デュ・クールのデータを分析した研究によれば、フランスで極度の貧困状態にある人は2018年から2025年にかけて37%増加した。なかでも住宅の不安定さは62%も急増しており、フランスでは200人に1人が路上や自分の住居を持たない状態で暮らしているという。研究は、ホームレス状態の増加の52%がインフレによるものだと指摘し、失業率が10%上がれば困窮者数も約10%増える一方、社会住宅のストックが10%増えればホームレス状態は約8%減るという相関も示している。移動の権利(車)と居住の権利(住宅)が、同じインフレと同じ雇用の不安定さによって同時に侵食されている――これが二つのニュースを並べたときに見えてくる構図だ。

この構図に対して、労働組合は声を上げている。CFDT、CGT、FOなどで構成する労組連合は、11月5日に民間・公務部門の労働者、退職者、若者を対象としたストライキとデモを呼びかけた。要求は賃金や年金、最低賃金、社会給付の引き上げにとどまらず、公共サービスへの財源確保、資産・相続・配当への課税を通じた税制の公正、そして2110億ユーロに上る公的支援の見直しにまで及ぶ。労組は、政府の予算案が「最も脆弱な立場にある人々や病人を攻撃する」ことで事態を悪化させていると批判する。つまり労組にとって、無保険運転も住宅不安も、個人の意思決定の失敗ではなく、政策が作り出す構造の結果なのだ。

その一方で、企業の側にも「社会・政治情勢が許せば」という留保がつきまとう。ルノーの最高経営責任者フランソワ・プロヴォは、今後5年間でフランスに100億ユーロ超を再投資すると述べたが、その条件として「社会・政治情勢が許せば」という一言を添えた。フランスはルノーの事業の20%、世界の従業員の40%を抱える重要拠点でありながら、同社はすでに電気自動車「セニック」の生産のためスペインに6億ユーロを投資すると発表している。2027年度予算の審議を数日後に控えたこの発言は、企業だけが増税で財政再建を担うべきではない、という政治的メッセージでもある。労働者の権利を守れという声と、投資条件を緩めよという声が、同じ予算案をめぐって綱引きをしている。

さらに、この家計の逼迫には外からの圧力も重なる。米国産ディーゼルは2026年上半期、フランスの軽油消費量の13%を占めるに至った。ロシア産エネルギーへの制裁や中東情勢を背景に、この割合はわずか1年で倍以上に増えている。トランプ氏が一時、欧州が戦略備蓄を取り崩さなければ輸出を停止すると示唆したことで緊張が走り、G7は1億バレルの追加放出で事態を収めた。供給源が集中すればするほど、価格は上がりやすくなる。冒頭の28歳のドライバーが保険料を払えなくなった背景には、ガソリン代の上昇も挙げられていたことを思い出したい。地政学の話と、無保険で道を走る一人の労働者の話は、燃料価格という一本の線でつながっている。

こうした一連の出来事に共通しているのは、働くこと・移動すること・住むことを、市場価格の変動にさらされたまま個人が引き受けるのか、それとも社会が共同で支えるべき権利として扱うのか、という問いだ。フランスの労組が公共サービスや最低賃金の引き上げを要求し、政府の予算編成そのものを争点に押し上げているのは、この問いに対する一つの答え方だと言える。

日本に目を転じれば、事情はまた違って見える。地方での車依存や住居費の負担は、フランスのように移動の権利や住宅の権利として一つの運動や政策論争に束ねられることは少なく、通勤手当や公共交通の維持費、生活保護や住宅支援といった個別の制度の中で、それぞれ別個に扱われがちだ――これはニュースそのものではなく、今回のフランスの事例から浮かび上がる対比としての見立てにすぎないが、同じ「車がなければ働けない」という状況が、フランスでは保険未加入という形で、日本ではまた違う形で現れているとすれば、両者を分けているのは困窮の深さではなく、それを権利の問題として言語化する回路があるかどうかなのかもしれない。米国についても、住宅や移動が雇用や信用と強く結びつき、地域ごとの格差を増幅しやすいと一般には言われるが、これもフランスの個別の統計とは別の、構造としての対比として受け止めてほしい。

11月5日のストライキと、2027年度予算をめぐる国会審議は、この綱引きの次の局面になる。ルノーの「100億ユーロ」は条件付きの約束であり、燃料価格はホルムズ海峡の情勢次第で再び跳ね上がりかねない。無保険の70万台は、罰則を強化すれば減る数字なのか、それとも賃金と住宅政策が変わらない限り形を変えて残り続ける数字なのか。働くために必要な移動と住まいを確保できない社会で、「自己責任」という言葉は、いったい何を覆い隠しているのだろうか。

出典

  • franceinfo (titres):L'intersyndicale appelle à faire grève et manifester le 5 novembre pour "les salaires, les services publics, l’emploi et l'industrie" (2026/10/6)
  • franceinfo (titres):VIDEO. Pouvoir d'achat réduit, voiture indispensable... De plus en plus de conducteurs font le choix, risqué et illégal, de rouler sans assurance (2026/10/5)
  • franceinfo (titres):Renault prêt à investir dix milliards d’euros en France dans les prochaines années (2026/10/5)
  • franceinfo (titres):Le nombre de personnes vivant dans la grande pauvreté en France a augmenté de 37% entre 2018 et 2025, selon les données des Restos du Cœur (2026/10/5)
  • franceinfo (titres):La France est-elle dépendante du diesel américain ? (2026/10/5)

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