
1ユーロのくじは誰が禁じるのか:「害を防ぐ規制」を測る三つの物差し
硬貨1枚か2枚で買える紙片がある。アイルランドの1€と2€のスクラッチくじだ。この安価なくじを禁止すべきだという提案が、現地の研究者らから出された。
提案したのは、シャノン工科大学(TUS)、クイーンズ大学ベルファスト、リムリック大学、ユニバーシティ・カレッジ・コークの研究者たちだ。『Irish Journal of Medical Science』に論文を発表し、公共放送RTEがこれを取り上げた。
禁止は、規制の中ではもっとも分かりやすい手段だ。ただ、フランスのニュースを並べて読むと、「何を禁じるか」より先に「誰が、どんな手続きで決めるのか」のほうが問われていることに気づく。この記事ではその視点で五つのニュースを読んでいく。
「たばこと同じに扱え」という提案の中身
まず事実を整理する。論文の提言は、1€と2€のスクラッチくじの禁止にとどまらない。
- ギャンブルの広告と販売場所でのマーケティングの規制強化
- スクラッチくじや賭け券への健康上の警告表示の義務化
- スクラッチくじの無地パッケージ
- ギャンブル関連法の執行強化
- ギャンブルへの課税引き上げ
- 国営宝くじを売る小売業者への営業許可料の導入
- 最低賭け年齢の18歳から21歳への引き上げ
根拠として挙げられているのは二つの数字だ。一つは、国営宝くじ規制局が委託した覆面購入調査で、小売業者の約30%が子どもに宝くじ商品を販売する意向を示したこと。もう一つは、経済社会研究所の報告書が、アイルランドで約130,000人に問題のあるギャンブルがあり、約279,000人に中程度の兆候があると推計していることだ。
論文の筆頭著者フランク・ホートン博士は、安価なスクラッチくじは子どもがあまりにも簡単に手にできると述べた。共著者のアン・キャンベル教授は、たばこと同じように子どもの目に触れない場所に置くべきだと語っている。
見落としたくないのは、これが法律ではなく研究者の提案だという点だ。さらに、最低年齢を21歳にする案や課税の強化は、子どもだけでなく成人の買い方にも影響する。ここから先は私の解釈になるが、「子どもを守る」という目的を掲げた提案が、成人の選択の自由にも及びうる構造になっている。この種の規制が難しいのはそのためだ。
禁じられたのは本ではなく、お金の流れだった
次に英国の例を見る。ここでは、禁止の対象がどこにあるのかという問いが浮かぶ。
英国政府は2025年7月、パレスチナ・アクションを「テロ組織」に指定した。報道によれば、支持者が空軍基地で器物損壊を行い、ブリストルではイスラエルの軍需企業エルビット・システムズの施設を襲撃したことが理由だ。指定以降、この運動への金銭的・物的支援は禁止されている。
作家のサリー・ルーニーは2025年8月、テレビドラマ化作品の収益を含む著作権収入の一部を同団体に寄付する意向を表明した。10月中旬、出版社ファーバーは、英国での作品から生じる収入をルーニーに支払えないとして、国内での流通停止を発表した。ルーニー自身は「英国で私の作品の出版契約を履行すれば、重大な刑事犯罪にあたる可能性が出てきました」と説明している。この決定は出版社と合意のうえだという。
記事が明記しているとおり、書籍そのものが禁止されたわけではない。英国の書店は在庫を売り続けられる。ただファーバーの通常流通網での補充ができなくなった。
つまり、国家が小説を禁じたのではない。支援の禁止という規制の効果が、事業者の慎重な判断を通って、結果として読者の手元から本を遠ざけた。ここで見えてくるのは、規制の「直接の対象」と「実際に表現が狭まる場所」が一致しないことだ。誰かの判断で止まったのに、誰の決定なのか分かりにくい。異議を申し立てる先も定まらない。
現場の反応も割れている。北アイルランドのデリーの書店主ジェニー・ドハティは「禁書というのは、買われる本なのです」と語り、新しい客が増えたという。ゴールウェイのケニーズ・ブックショップでは売り上げが10倍になった。一方、ロンドンのバード・ブックスの経営者ヴィッキー・シェンキン・カーは、残っていた本が数日で売り切れた後も追加輸入を見送った。「作家に著作権収入が入らない本を売ることには抵抗があります」と話し、これは声を封じようとする意図のように感じられるとも述べている。
なお、パレスチナ・アクションの共同創設者フダ・アンモリは禁止の取り消しを求めて政府と法廷で争っており、英国最高裁での審理が水曜日と木曜日に予定されている。規制への異議申し立ては司法の場に持ち込まれている。
署名50万件は、閉鎖の決定ではない
フランスでは、別の形で「止める」ことが議論されている。国民議会のウェブサイトで、CNewsを視聴覚メディアから排除するよう求める請願が、11月2日月曜日に署名50万件を超えた。請願は地上デジタル放送の周波数の取り消しと放送局の閉鎖を求め、CNewsを「プロパガンダ装置」と呼んでいる。
背景として記事が伝えるのは、10月23日にトラップとラ・ヴェリエールで起きた人種差別的な襲撃事件だ。トラップ市長のアリ・ラベら左派の一部は、移民や移民をルーツに持つ人々を標的にする言説を放送で過度に取り上げたCNewsに、襲撃の責任の一端があると非難した。CNewsはAFPに対し、この政治的な請願にはコメントしないと述べている。
重要なのは、50万件という数字が閉鎖の決定を意味しないことだ。国民議会の規則では、この基準を超えた請願は報告書をもとに本会議で討論を開くことができる。ただしその前に、委員会が請願を審査するか処理を終えるかを決め、審査するなら報告書を作らなければならない。記事は先例として、治安部隊による武器使用を正当なものと推定する法律に反対する請願を挙げる。署名は50万件を大幅に超えたが、7月に法律委員会の議員によって処理を終えられた。
私の読みでは、この請願は二重の性格を持つ。一方では、市民が国家に対し「この放送を止めてほしい」と声を上げる回路だ。他方、その回路には、数の圧力と議会の審査を切り分ける段階的な手続きが組み込まれている。署名の多さが、そのまま放送停止の根拠になるわけではない。
もう一つ、同じ週のフランスの記事からは対照的な光景が見える。エロー県ロデーヴのモスクの郵便受けに「イスラム教は出ていけ」「スーツケースか棺桶か」といった文言が見つかった。市当局は憲兵隊に告訴し、共和国検察官にも通報書を送った。宗教を理由とする財産損壊と、宗教を理由とする犯罪の具体的な予告という脅迫の疑いで捜査が始まっている。市は11月4日に戦没者記念碑の前で、自由、平等、友愛、あらゆる信条への尊重を確認する集会も予定している。
ここでの規制は、特定のメディアや商品を禁じる話ではない。損壊と脅迫という具体的な行為が捜査と刑事手続きで扱われる。市が集会で価値を確認する場面は、「共和国の価値」を共有する社会の姿勢を映している。ただ、記事から読み取れるのは市当局の説明までで、フランス社会全体の受け止めは分からない。
偽情報に「禁止」は届くのか
米国の中間選挙をめぐる記事は、ここまでと違う角度から問いを投げる。
Newsguardの調査によると、選挙が不正に操作されたという言説が、今回の選挙期間中に最も多くの誤解を招くコンテンツを生んだテーマだった。電子投票機が票を書き換える、といった投稿が広がっている。ニューヨークの投票所を出た有権者がTikTokに投稿した動画では、「共和党と保守党の名前だけが消されていた」と訴えられたが、実際には2枚のうち1枚は地方選挙の投票用紙で、両党の候補者がそもそもいなかった。記事はこうした告発が、イーロン・マスクやドナルド・トランプのアカウントを通じて大量に拡散されたと伝えている。
AI生成の短い動画も目立つ。ジョージア州選出のジョン・オソフ上院議員は美容整形を受けたと非難され、本人は否定した。上院議員候補のアブドゥル・エルサイードは、イスラエル国家の破壊を望んでいると事実に反して非難された。さらにForum AIの調査では、会話型AIの回答の40%に少なくとも1つの事実誤認があった。郵便投票の締め切りを誤って示した例もある。
記事は、この状況にどんな規制や対抗措置が取られているかには触れていない。ここは私の推測だが、この事例はアイルランドの「商品を禁じる」やフランスの「放送局を止める」と違って、害の出どころが無数の投稿者、AI、プラットフォームに散らばっていることを示す。一般に米国では表現の自由が強く重んじられると言われることが多い。だとすれば、禁止ではなく訂正や情報提供など別の手段が議論の中心になる可能性がある。ただしこれは通念に基づく見通しで、今回のニュースから断定できることではない。
日本の読者が持ち込める物差し
日本のことは、ニュースに根拠がないので具体的には書かない。ただ、日本の読者がこの記事を読む際に使える物差しはある。
一つ目は、害を減らす手段が必要最小限かどうかだ。アイルランドの提案は、警告表示、課税、許可料から全面禁止、年齢引き上げまで幅広い。目的が正当でも、手段の強さは別に問われる。
二つ目は、誰が決めるのかだ。英国の例では国家の指定が、出版社と作家の合意、書店の判断へと連鎖した。フランスの請願では、市民の署名と議会の委員会が別の段階に置かれている。
三つ目は、異議申し立ての道があるかどうかだ。パレスチナ・アクションの訴訟は、規制を受けた側が司法に訴える例だった。一方、書店の自主的な判断に対しては、同じような道が見えにくい。
今後の見通し
ここから先は推測にすぎない。アイルランドの提案が実際の政策になるかは、記事からは分からない。フランスの請願も、委員会が処理を終える可能性がある。先例がそれを示している。英国では最高裁の審理が始まる。
それでも、三つの物差しは残る。規制の目的が正しいかという議論から、誰がどんな手続きで線を引くのか、引かれた側はどこで争えるのかという議論へ重心が移っていく。偽情報のように責任の所在が散らばる問題が増えれば、その傾向は強まるだろう。
人を守るための制限は、誰がどんな手続きで決めるべきだろうか。そして、その決定が間違っていたとき、私たちはどこで異議を唱えられるのだろうか。
出典
- franceinfo (titres):En Irlande, un appel à l'interdiction des jeux à gratter bon marché pour protéger les enfants (2026/11/3)
- franceinfo (titres):La municipalité de Lodève, dans l'Hérault, porte plainte après des inscriptions racistes sur une mosquée (2026/11/3)
- franceinfo (titres):Midterms 2026 : une campagne électorale marquée par une avalanche de fausses informations (2026/11/3)
- franceinfo (titres):Les fournisseurs irlandais à la rescousse des Britanniques privés des livres de Sally Rooney, suite à son soutien au groupe interdit Palestine Action (2026/11/2)
- franceinfo (titres):Une pétition appelant à fermer la chaîne CNews dépasse 500 000 signatures sur le site de l'Assemblée nationale, seuil requis pour un possible débat (2026/11/2)