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消防士2万人分の空白と、給与指標凍結のあいだで
社会

消防士2万人分の空白と、給与指標凍結のあいだで

「もしこの法律が森林火災の発生前に存在していたとしても、この夏に直面した問題には何一つ対応できなかっただろう」。9月27日、パリで開かれた集会で、職業消防士および専門行政・技術職員の自治連盟の副書記長グレゴリー・ヴェルクトル氏はそう言い切った。政府が示した民間安全保障の近代化法案について、彼は「われわれの困難にまったく何一つ応えていない」と切り捨てている。

消防士たちがパリで座り込み型の集会を開いたこの週末、フランスはもう一つの緊張を抱えていた。9月29日火曜日に予定される公務員ストである。CGTやFO、CFDTなど公務員系の主要労組がこぞって参加を呼びかけたこのストは、政府が公務員の基本給を算定する「給与指標」を4年連続で凍結しようとしていることへの反発から生まれた。SNCFとRATPは運行がほぼ通常通りになると見込んでいると発表しているから、通勤に大きな支障が出るわけではなさそうだ。だが問題は電車が動くかどうかではない。フランス国立統計経済研究所によれば、2017年以降の累積インフレ率は2026年末までに24.17%に達する見通しなのに対し、同じ期間に公務員の給与指標が引き上げられたのは2022年の3.5%と2023年の1.5%を合わせても5%強にとどまる。つまり、実質的な購買力は目減りし続けている。そしてその公務員のなかには、消防士も含まれている。

ヴェルクトル氏が求めているのは、職業消防士を新たに2万人採用することと、国がその採用を法律で義務づけることだ。政府は8月半ばの会合後に新たな手段を提供すると約束していたが、彼に言わせればそれは「政治的なアピール」であって、気候温暖化がもたらす明日の民間安全保障の課題を本気で測定し、政策に反映させる意思の表れではないという。政府が「地方自治体の自由な運営の原則」を盾に人員配置の義務化を避け続けている、という彼の批判は、フランスという国が公共サービスの人員をどの財布から、どの権限で用意するのかという、地味だが根本的な問いを突きつけている。

この問いが机上の空論でないことは、同じ週末に大西洋の向こうで起きていたことを見れば分かる。9月26日土曜日の夜、米国東海岸を「ノーイースター」と呼ばれる季節外れの暴風雨が襲った。通常は秋から春先にかけて発生するはずのこの現象が、なぜこの時期に、これほどの勢力で来たのか。原因についての明確な説明は報じられていないが、結果ははっきりしている。最大6メートルの波、最大風速100キロの突風。ニューヨークでは56歳の市職員が倒木に押しつぶされて亡くなり、6つの州で6万人以上、続報では8万人以上が停電した。ボストンのローガン国際空港だけで253便が欠航し、ニューヨークやメリーランド州で予定されていた複数の文化イベントも中止に追い込まれた。ニューヨーク州知事キャシー・ホークル氏は「信じてください。最悪の事態はまだこれからです」と述べ、市長のゾーラン・マムダニ氏は住民に月曜日まで外出を控えるよう呼びかけた。ある住民は「出勤前にコーヒーを入れようと起きたら、水が流れる音が聞こえました。寝室に巨大な滝のように水が流れ込んでいるのが見えました」と語っている。

ほぼ同じタイミングで、地球の反対側のバンコクでも似た光景が広がっていた。木曜日から日曜日までの4日間で330ミリを超える雨が一部地域を襲い、約4900人が避難所に身を寄せ、5万2000世帯が被災し、タイの首都全域に災害事態が宣言された。会社員のバンディット・パンカン氏は「まったく備えていませんでした。災害を担当する機関からSMSで警報を受け取ったのは昨日でしたが、その時には前夜からすでに水が入り込んでいました」と振り返る。当局は買い占めやつり上げ価格を警戒しなければならないほど、生活必需品の不安が広がった。

パリの消防士の訴え、ニューヨークの倒木と停電、バンコクの遅れた警報。一見バラバラなこの三つの出来事は、実は同じ問いの異なる断面ではないだろうか。異常気象そのものは防げないとしても、それに応じる人員や設備、警報の速さ、財政の余力は、平時にどれだけ準備していたかによって決まる。そしてその準備には当然コストがかかり、そのコストは誰かが負担しなければならない。フランスの文脈でこの問いが特徴的なのは、消防士の増員要求と公務員全体の賃金交渉、そして気候変動への適応が、切り離せない一つの財政・政治問題として語られている点だ。ヴェルクトル氏が地方自治体の「自由な運営の原則」を批判の対象に挙げたように、フランスでは公共サービスの人員配置をめぐる権限の所在そのものが、繰り返し政治的な争点になる。

日本ではこの種の議論がどう立ち上がるかは、今回のニュースだけからは判断できない。ただ、災害への備えを消防や自治体の人員体制の問題として語る発想そのものは、フランスの消防士たちの主張と重なる部分があるように見える。地域によって担い手の確保しやすさに差があることは一般に指摘されることが多く、そうした格差が平時には見えにくいまま放置されやすい、とも言われる。今回のフランスやタイ、米国の事例が示すのは、その格差や不足が可視化されるのは、たいてい危機の最中だという皮肉である。

アメリカの場合、今回の暴風雨対応で誰がどの費用を負担したのかという具体的な情報は報じられていない。ただ、州知事や市長がそれぞれ独自に住民への警告を発し、対応を主導している構図からは、危機対応の実務が国よりも州や自治体の単位で動いていることがうかがえる。停電の復旧や倒木の処理、空港の再開といった作業を誰がどのくらいの予算で担うかは、州ごとの財政力や優先順位によって左右されるだろう、という見方も成り立つ。

フランスの消防士たちの主張に戻れば、彼らが求めているのは単なる賃上げではなく、「気候温暖化を背景とする明日の民間安全保障の課題」に見合った人員そのものだ。給与指標の凍結によって実質賃金が下がり続ける公務員という働き手の集合が、同時に山火事や洪水の最前線に立つ人々でもあるという事実は、公共サービスの待遇問題と防災体制の脆弱さが、実は一枚のコインの裏表であることを示している。政府が2027年度予算を提示する直前というタイミングでストライキが組まれたことも、この問題が単発の労使交渉ではなく、今後の国家財政の設計そのものに関わることを物語っている。

この先、フランスでは消防士の増員要求と給与指標をめぐる交渉がどう決着するかが焦点になる。もし政府が指標の凍結を維持すれば、公務員の実質的な待遇はさらに切り下がり、消防を含む現場の担い手確保はいっそう難しくなるかもしれない。一方で、増員や待遇改善に踏み切れば、その原資をどこから捻出するのかという財政上の問いが避けられなくなる。ニューヨークやバンコクの被害が、季節外れの暴風雨や記録的な豪雨という「異常」によるものだったのか、それとも今後繰り返される「通常」の一部になっていくのかによっても、この議論の重みは変わってくるだろう。

危機に備えるための人員や設備を、平時からどれだけ厚く維持しておくべきか。その費用を、税金として広く薄く集めるのか、特定の層によりコストを負わせるのか、それとも人員そのものを増やすことよりも別の仕組みで補うのか。フランスの消防士たちの声は、この選択を先送りできない問いとして私たちの前に置いている。あなたの街の消防や自治体の担い手が足りなくなったとき、その負担を引き受けるのは誰であるべきだと思うだろうか。

出典

  • franceinfo (titres):Vagues de 6 mètres, vents à 100 km/h : une violente tempête ravage la côte est des États-Unis, New York durement touché (2026/9/27)
  • franceinfo (titres):Des milliers d'habitants évacués à Bangkok après d'importantes inondations, plus de 33 cm de pluie tombés en quelques jours (2026/9/28)
  • franceinfo (titres):La SNCF et la RATP tablent sur un trafic "normal" ou "quasi normal" lors de la grève de la fonction publique prévue mardi (2026/9/28)
  • franceinfo (titres):Vols annulés, électricité coupée, inondations côtières… Le nord-est des Etats-Unis frappé par une tempête rare pour la saison (2026/9/27)
  • franceinfo (titres):Pour la Fédération autonome des sapeurs-pompiers professionnels, le projet de loi de modernisation de la sécurité civile "ne répond à aucune de nos difficultés" (2026/9/27)

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