バグズ・ワールド

アンテンヌフランス読者の多くはこの手の作品をあまり好まないかもしれない。原題がLa Citadelle assiegeeと言うフランス語なのに英語の名前になっているから、と言うわけではない。昆虫をテーマにしたドキュメンタリーだ。
日本にも実は優秀な自然を相手にカメラを向ける人材が多くいるのだが、なかなか商業作品としてスクリーンに映ることは無い。しかしフランス映画ではミクロコスモス、皇帝ペンギンなど非常に良くできた作品が多くリリースされている。
本作は、アフリカに生息するアリの生態を記録したドキュメンタリーで有るにもかかわらず、ストーリーが出来ている。違う種のアリたちの闘い、何倍もの大きさの生物を集団で攻撃して食い尽くすシーンなど、ドイツ語のナレーションなら残虐に感じるかもしれないし、スペイン語だったらうるさそうだしと、詩的な表現も含めたフランス語のナレーションは良くマッチしている。
シロアリはまるでサグラダ・ファミリアの様な巣を作り上げ、女王アリを中心に国家の様に生活をしているが、付近の木に雷が落ち、この要塞のような巣の一部が破壊されてしまうが、豪雨によって内部に水が入り込んでしまう。何とか危機を脱する所に、サスライアリの大群が攻撃を仕掛けてくる。この大坂冬の陣のような闘いは、何の縁もないシロアリを応援してしまう。
伏線でサスライアリが移動してくる様もドキュメンタリーではあるがドラマティックで、コレが最後に重なり合う所には驚く。あえて誘導したのか、偶然か、ストーリーを作り上げるために別に同じような大群を取材したのかは不明だが、フィクションのように筋書きが出来ている。


生物たちの驚異のアドベンチャーのどまん中に潜入!
学名 マクロテルメス・ベリコサス=オオキノコシロアリ VS 学名 ドリルス・ニグリカンス=サスライアリ
□映画のコンセプト
『The Besieged Fortresss』は自然界に題材をとったドキュメンタリー映画で、昆虫たちの生態を、まるでパニック映画そのもののサスペンス、ショック、興奮で描き出す、驚異の映像ドキュメンタリーに仕上がっている。
映画の主役たちは実際に地面にうごめいている昆虫たちで、ここでは主にオオキノコシロアリとサスライアリたちの攻防が描かれる。鋭い顎を持った勇猛果敢な兵隊アリ達の動きは、まさにホラー映画の登場人物そのもので、生まれながらの役者である蟻と同様シロアリも優秀な演技者である事が見て取れる。
シロアリの巣そのものが、『フィフス・エレメント』や『メトロポリス』などのSF映画で描かれる巨大な要塞の様で、中には無数のトンネル、通路、回廊、居住区などが網の目の様にめぐらされ、要塞の中では王アリと女王アリが君臨する中、働きアリや兵隊アリたちが営々と生存の戦いを繰り広げているのだ。
地下に建造された広大なメガロポリスで彼らもまた大災害に見舞われて逃げ惑う。一瞬のうちに生と死が分かれる世界、まさに人間界の縮図といった光景が展開される。個々の昆虫がロボットの様に無機質な動きを見せる一方で、シロアリのコロニー全体はまるで高度な知能集団の集まりの様な様相を見せてくれる。この映画は、自然の動きをただありのままに捉えるのではなく、娯楽作品としても見ごたえがある様に、ドラマチックに脚色され、大型パニック映画と同様のスリルや興奮を味わえるだけでなく、昆虫の生態を観察することにより自然界のルールを理解するという非常にシリアスな内容をも含んでいるのだ。
□監督:フィリップ・カルデロンとは
今度のドキュメンタリー映画の製作者の一人でもある兄のフランソワとフランスの田舎で共に成長した私は、野生に焦点を当てた科学ドキュメンタリーに興味を持つ様になり、細胞や分子といった無限大に小さなものから、宇宙の銀河系という無限大に大きいものまで、蟻の生態のイメージを通じて描いてみたいと思う様になった。映画を作るために父は自分たちが生活する19世紀にたてられた大きなアパートに本物の蟻のコロニーを作り上げ、時には正式なディナー・パーティが開かれている居間から、蟻たちのうごめく様子を観察したりして、招待客を驚かせたりしていた。父はまた模型を使ってバスタブに地球上に生命が誕生する様子を作り上げたりした。私たちが10代になると、学校休みに、世界の様々な場所でビューリュウ16mmカメラ一台をたずさえて映画製作を続けている父の元に飛んでいって父の仕事を手伝だったりしていた。1981年に私はついにアシスタント・ディレクターとしてジェラルドの映画製作スタッフの一員に加えられ、長編ドキュメンタリー映画Le Risque De Vivreを製作、この映画はカンヌ映画祭の正式出品作品に選出されて、最優秀技術賞を獲得するという栄誉に浴した。進化を題材にしてアンドレ・ランガニーと共同制作したこの映画は数え切れない程の自然や野生の生態を描き出し、その一部は私自身で撮影したものである。
□出演者たち
オオキノコシロアリ (女王アリ、王様アリ、働きアリ、兵隊アリ、羽アリ)
オオキノコシロアリは社会性昆虫だ。彼らのコロニーはそれぞれの形態や役割から3段階のカースト制がとられている。
サスライアリ(働き蟻、兵隊蟻、生殖蟻)
蟻は地球上で最も個体数の多い生物である。アフリカのサバンナには1ヘクタール当たり2千万匹の蟻がいるといわれている。蟻は驚異的に強い生命力があり、11ヶ月間放射線をあびたセシウムを照射しても生き延びる強さを持ち、あらゆる形の工業汚染にも影響を受けず、水浸しになった環境でも2週間生き延びられる力を持っている。
□スタッフ
監督:フィリップ・カルデロン
助監督:ジュヌビエーブ・ブルネ
ナレーション:ベノア・アレマン
脚本:フィリップ・カルデロン、ジェローム・デュフィ、ギョーム・ヴィンセント
脚色:ジェローム・デュフィ
ナレーション脚本:フィリップ・カルデロン、ジョルジュ・マルベック、ギョーム・ヴィンセント
動物ハンドラー:パトリック・ブルーゼン、マリー・シュナイダー
撮影監督:ピオトル・スタドニッキ
製作:ティエリー・コミショナット、フランソワーズ・カルデロン、ベノア・ティエレ (Les Films du Reve)
現場監督:ベノア・ティエレ
共同製作:Cite-Amerique, TF1 International, L’Institut de Recherche por le Depeloppement, France 2 Cinema 
協賛: Canal+、Cine Cinema, La Sodec, Societe de developpement des entreprises culturelles-Quebec, Telefilm Canada
カナダ、フランス共同製作
カメラ:ネジマ・ベルダー
セット・デザイン:ジャン・イヴ・カーヴェヴァン
音響エンジニア:ディディエ・ガトワラット
照明:ティェリー・カファンド
電気技師:セイドウ・ウエドラオゴ
イメージ編集:シルヴァン・レベル
音響デザイン:ピエール・ジュールス・オウド
音響効果:ジョナサン・リーブリング
音響効果&環境音編集:ルイ・モリナス、ピーター・ロパタ、リュック・レイモン
音響監修:アリス・ライト
音響録音:ナタリー・モラン、ヘンリー・Jr.ゴディング
ミキサー:ステファン・ベルゲロン
視覚効果:ジャン・フランソワ・バシャン、エマニュエル・マゼロン
スチル撮影:ギヨーム・マジッレ
科学アドバイザー:(撮影)コリンヌ・ロウラン・レフェーブレ,アラン・ロベルト(IRD)、ブルージュ大學、CNRS
(撮影)イェオ・コロ、Station d’Ecologie de LAMTO, コートジボワール
(偵察)マイケル・ラページ(IRD)
音楽作曲・編曲:フレデリック・ウェーバー
オーケストレーション:フレデリック・ウェーバー、ダレン・ファン
ミキサー:ロジャー・ゲリン
音楽コーディネート:ピエール・ダニエル・レオール
使用楽曲 “Oh Ma Reine ! ”
歌詞: アマンドウ・バガヤコ、マルク・アントワーヌ・モロー
本ドキュメンタリー映画は2005年7月5日から9月15日の期間、ブルキナファソのバンフォーラ及びボボ・ディオウラッソ地区でHDビデオにて撮影された。

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