カトリーヌ・コルシニ監督インタビュー(フランス映画祭2021横浜『分裂』)

『分裂』(仏:LA FRACTURE)についてカトリーヌ・コルシニ監督にインタビューしました。内容はネタバレも含まれております。

 

冒頭にベンツのトラックが出てきましたが、何か意味があるでしょうか?
日本では高級車のイメージがあるので、トラックの運転手はリッチという設定だったとか?

あのトラックにしたのは、赤いから選んだのです。

別にブランドはどれでも良かったのです。
大型のしっかりしたトラックであれば。
このトラックは、彼の物ではなく企業のものですし、貨物を運ぶための会社のものです。

フランスではベンツのトラックは高いというイメージがありません。

そういう意味では全くないです。ベンツじゃなくてもよかったんですけど、赤いので選びました。

 

黄色いベスト運動っていうのは、日本でも話題になりました。この黄色いベスト運動っていうのは、デモの多いフランスでも、特別だったのでしょうか?

フランスでは、毎週土曜日にデモが起きているとイメージで、ちょっと私も笑っちゃうのです。
あの黄色ベスト運動は特別でした。

黄色いベストは車が故障した時に、路肩に入って緊急事態を表すために付けないといけないのです。
それを付けてデモをするというのはシンボル的な意味があるんです。

特にフランスでは、ロータリーが信号の代わりにたくさんあります。
彼らがロータリー集まって、ソーセージを焼いたり、コーヒーを飲んだり、お茶の飲んだりして話し合ったり、出会いの場を作ったりしたことがシンボリックに行われたのです。

それが普通のデモとはかなり違っていました。
一つとても特別だったのは、ある政党に属している人だけがデモをしたわけではなく、投票しないような人、極右から極左まで色々な主義主張がある人達も集まってデモをしたことが、いつものデモでは全然違うのです。
一人ひとりが政党の主張から切り離した形でデモをするんだっていう運動だったんです。

なぜ彼らはデモをするんでしょうか?

元々はガソリンの値上げから始まったことです。小さな街中の道路の速度制限が90キロから80キロに制限されたのです。その黄色いベストのデモに参加している人達は都市の人ではなくて、都市周辺、もっと地方の町に住んでいる、村に住んでるような人達です。必ず車でないと移動ができないのです。

一方で、公共サービスにあたる学校、郵便局、病院、商店もですが、閉鎖していって遠くまで行かないと行けなくなってしまいます。
そうすると、車に乗らなくてはいけないのですが、ガソリンが上がって、自分の給与では、月の途中でもうお金がなくなってしまうっていうような状況になってしまいました。

一方で遠くに行かなければならないし、速く走ると速度違反切符を切られるということで、とても不満が溜まっていったのです。

その反面、都市部の人はそういうことは分からない。自転車にも乗れるし、公共交通にも乗れるけれども、こちらにはバスもないということで、デモをしていたのです。

私たちの声に全く耳を傾けてもらえない、地方の人達の主張が全く聞き入れられていないと。その割にはガソリンが上がったりしたら、結局は自分達に課されるま税金が増えるようなものです。どうしても払わなくちゃいけないお金なのです。このような不満を表明してるんです。

今もフランスではガソリン代が値上げされて2倍ぐらいになり、再度黄色いベスト運動が盛り上がっています。
またその時と一緒な感じでしょうか?

以前の黄色いベスト運動が起こった時の状態よりも、更に悪いと思います。
今コロナ危機が終わったばかりですし、ガソリンだけではなくて電気やガスも上がってます。
そういう意味では非常に苦しい状況です。

ジャーナリストやニュースでも取り上げています。またデモが起こるか、集会を開いてもいいか?不満のレベルがどうなってるのか?
例えばスペインの政府はバランスを取った政策をを導入して、利益が出ている企業は、その利益を国民の特に恵まれない人に分配するようにと指令を出しました。
フランスでは、月2000ユーロ以下の収入の人には100ユーロを支給するという政策が行われます。

映画のタイトルは社会の分断っていう形を表現しているように感じましたが、物語の終盤では、お互い分かり合うっていう雰囲気を出してきてるような感じがしました。

原題はFRACTURE(フラクチュル)と言います。
日本語でなんて訳されているかは知らないのですが、
フランス語では3つ意味があります。

愛情関係の別れ、分裂っていう意味もあります。
ですから最初のカップルがこう分かれて、ラフという人物が彼女を何度か引き止めようとするっていう心もフラクチュルなんですね。

そしてフランス語では、またあの骨を折った時もフラックチュルって言うんです。
ですから骨折って意味もあり、具体的なフラクチュールとそれから社会的なフラクチュールがあります。

病院の中では、あの色んな人が病気だとか怪我とかししながら、集まってきて、
まさにこの待ち合わせのシーンというのは、フランスの社会をの縮図みたいなものなんです。
先ほど言ったような都市部の人もいれば、地方の人もいれば、そして黄色いベストに参加するような、
あんまり恵まれていない環境の人もいれば、ラフのようにどっちかと言うとインテリエリートいうような人も、
その場に居合わせるっていうところなんですね。

そこら辺の社会の住んでる場所とか、経済的な環境によっても、フラクチュル、分かれているっていうところが描かれていて、
あの最後は、アイロニー的なイタリア喜劇的なところもあって
最初は口喧嘩をしているのが、だんだん分かり合っていくという構成になっているわけです。

最後は相手にということにも耳を傾けることによって、
相手を理解することは、お互いに理解し合うことによって
状況が改善するっていうメッセージですね。

テレビ局で放映されてたんですか?映画館ででしょうか?

今は映画館だけで上映されています。
フランスでは映画館の保護っていうのが非常に重要視されていて、
映画として映画館にかかっている間はテレビ放映してはいけないのです。
少なくとも3か月とか6か月後にならないと、テレビ放映はされません。

この映画は、その間のあのコンペに出ている作品でですので、
一番最初に上映されたのは7月のカンヌの会場で上映されました。

フランスは映画そして映画館で上映するっていうことを保護しています。

テレビにはじめから出してしまうと、映画を殺すのに等しいと考えています。
映画である限り映画館にかけて映画を見てもらい、
またその観客と映画の一体感というのが重要です。

映画館でよく言うんですけれども、
映画館では、頭をあげて映画を見る
テレビを見る時は頭を下げてテレビを見るって言うんです。

観客が来てもらって映画館で上映するっていうのが、基本です。
コロナで今までのように何百万人の人が
映画館に足を運んでくれて映画を見るっていう
のがこういつ戻ってくるのか?
いつ戻るのか?
というのは心配なところなんです。

フランスの社会問題は映画などなどのメディアで解決に迎えると思っているでしょうか?

映画が解決できるのかどうか分からないですけれども、
例えば病院で働いてる人の条件が非常に悪いっていうのは、
叫んでいます。

それをこう伝えることが映画ですることによって、
エコーの役割をして、もっと拡張して、
その声を伝えることができるのかなと思います。

みんな主張はしてる訳ですよね、デモをやったりとかして。
コロナの状況になって
病院で働いている人の本当に劣悪な環境っていうのは
更にこう強調されてみんなが知るところとなっています。

仕事も大変で、尊敬されないとか
仕事をしたいのにま資材が足りないとかですね。

そういうことが明るみに出たのです。
いま社会っていうのは超リベラルな社会になっていて、
公共サービスというものが、破壊されつつあるのです。

本来病院は公共財として
無料で治療を受けられてみんなの為にあるのに、
だんだんこの民営化していって
どんな人でも受けられる治療や
無料で受けられる治療、
その他にも公共サービスが失われつつあるところが
嘆かわしいところです。

 

『分裂』(仏:LA FRACTURE)

<ストーリー>

ラフとジュリーは、破局寸前のカップル。ある日、転倒して腕の骨を折ったラフは、救急に運ばれ、ジュリーも駆けつける。その日は、パリで「黄色いベスト運動」の大規模デモがあり、救急はデモで怪我をした人々で溢れていた。長い待ち時間の間に、ラフはデモで足を怪我したヤンと知り合い、自分の偏見や思い込みに気づく。病院の外では、デモ隊と警察の攻防がさらに激しさを増し、病院は臨時閉鎖されることに。病院内は更に混乱し、長い夜は続く…。

©DR

第74回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門(2021)
監督:カトリーヌ・コルシニ
出演:ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、
マリナ・フォイス、ピオ・マルマイ
2021/フランス/シネマスコープ/98分/ドラマ

Antenne France
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