ムハンマド騒動、そのときフランスは。

デンマークの新聞が掲載したイスラム教の預言者ムハンマドの風刺漫画問題は世界中に波紋が広がっています。日本国内でも世界各地で抗議するイスラム教徒達の姿が報じられています。しかし気になるのが、問題の火種となった風刺漫画そのものを見ることはなく、風刺漫画の何がそんなに彼らを暴動に走らせたのかはっきりと見えてこないことでしょう。
というのも、イスラム教への配慮もあり世界中のメディアが細心の注意を払ってこのニュースを扱っているからです。例えば米国で風刺漫画の転載に踏み切ったのは地方有力紙を含む数紙だけと言われています。ニューヨーク・タイムズなど主要紙は「掲載の必要はない。イスラム教徒への侮辱になる」として転載を見合わせました。
世界最大のイスラム人口を抱えるインドネシアの警察当局は、タブロイド紙「ペタ」が転載したとして、同紙の編集長を不敬の疑いで事情聴取しています。有罪となった場合は、この編集長は最高で禁固5年の刑が科せられます。マレーシア政府は転載をした英字紙サラワク・トリビューンの発行免許の無期限停止を閣議決定しています。
しかし一方では、ニューヨーク・プレス編集長などスタッフ4人は、転載を経営陣に認められなかったことに対して抗議の辞任をしています。編集長であればもちろん「転載して、ことの火種、事実を伝えるべきだ」と思うでしょうし、経営陣であれば「転載したことが発端で新たな暴動を巻き起こすのはさけたい。イスラム教徒の非難を買うのは得策ではない」と考えるのは当然でしょう。
さて、欧州で最も多いイスラム教徒人口500万人を抱えるフランスも、まさに渦中の国となりました。
転載の先陣を切った「フランス・ソワール」紙では、局長がエジプト系フランス人の社主に解雇される事態に。
続いて3日付のフランスの有力紙ルモンドは1面に、イスラム教の預言者ムハンマドの顔とみられる風刺漫画を掲載しました。「私はムハンマドを描いてはいけない」というフランス語の文を縦、横にたくさん書いて、全体としてムハンマドとみられる人物の顔を浮き彫りにしています。同紙は同時に社説で、「イスラム教徒にはムハンマドを風刺した絵はショックかもしれないが、民主主義においては、人権を踏みにじるケースを除き、言論を取り締まることはできない」と表現の自由を主張。
また、先週8日発売されたフランスの週刊紙2紙が風刺漫画を相次いで掲載。イスラム教徒を挑発したとも受け取れる内容で、シラク大統領が同日直ちに風刺漫画掲載を非難しています。
ひとつめは政治風刺で知られる漫画週刊紙の「シャルリー・エブド」。一面に「原理主義者に弱り果てたムハンマド」の見出しで、両手で顔を覆って「思慮のない人々に愛されるのもつらい」とつぶやく預言者の風刺漫画を掲載。イスラム社会の反発をかったデンマーク紙の風刺漫画12点も合わせて転載し、「表現の自由」の重要性を訴えました。この特集号は通常14万部のところ40万部以上を発行、発売日の午前中には売り切れたと言います。
もう一紙は、すっぱ抜きで知られる週刊紙「カナール・アンシェネ」。「悪魔的な絵」と書かれた検閲印のようなマークとともに、ムハンマド風の人物らを描いた漫画を掲載し、イスラム社会を皮肉りました。
「シャルリー・エブド」に対しては、仏イスラム教評議会は10日、提訴に踏み切ることを決めておりイスラム教徒の反発をあらわにしました。一方で、仏日刊紙フランス・ソワールやリベラシオンについては、デンマーク紙の風刺漫画の転載が中心だったことから提訴を見送っています。
シラク大統領は「挑発行為を非難する。表現の自由は仏社会の重要な要素だが、寛容の精神と宗教にも配慮して、その権利を行使すべきだ」と語っています。
フランスでは昨年から各地で若者の暴動が勃発。移民の失業問題が原因の一つとされ多宗教国家の危機とも報じられました。今回の一件では、相次ぎ転載に踏み切った背景に揺れる社会がかいまみられ、「自由」を重んじるフランス人としての自らのアイデンティティを改めて叫んでいるようにも見えるように思います。

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