国際

2026/9/7
モペッドに乗った35歳と、英仏海峡を渡る移民合意――「置き去られた」人々の票はどこへ向かうのか
水色に塗られた旧東ドイツ製の原動機付き自転車「シムソン」に乗って、ウルリヒ・ジークムントは妻とともに投票所に現れた。場所はドイツ東部、人口約1万人の町タンガーミュンデ。35歳の彼が生まれたのは1990年の東西ドイツ再統一からわずか3週間後のことだ。この光景そのものが、彼の政治の核心を語っている。過去への郷愁と、今この場所で暮らす人々の不満を、一台のバイクに乗せて運んでいるのだ。

2026/9/4
国外退去も、ドローン警報も、招集された「普通の市民」も──ヨーロッパの安全保障はどこまで日常に入り込むのか
画面の右半分に、モスクワにいるはずのロシア人論客の顔が映っている。下にはテロップ。「Xenia Fedorova、『L’Heure inter』に復帰?」。司会者は「フランス政府が彼女の滞在を阻んでいるため」と説明し、ビデオ通話での出演再開を告げた。9月2日、パリのCNewsのスタジオで起きたのは、そういう場面だった。国外退去命令から1カ月余り、資産も凍結されたはずの人物が、画面の向こうから戻って…

2026/9/2
電気代の請求書とG20の集合写真、その両方に映り込むロシア
もしこの夏、あなたがフランスに住んでいて電気やガスの請求書を開いたなら、去年より少し重くなった数字に気づいたかもしれない。欧州統計局が9月1日に発表した速報値によると、ユーロ圏の8月のインフレ率は前年同月比3.3%。7月の2.9%から一段と上がり、3年ぶりの高水準になった。原因はエネルギー価格で、前年同月比14.3%という跳ね上がり方をしている。食品は横ばい、サービスの伸びはむしろ鈍化しているのに…

2026/8/26
ライプチヒの空を飛んだドローンと、市民が知り得ないものの境界線
8月4日、ドイツ・ライプチヒ空港の保安区域内で、爆発物を搭載したドローンが発見された。数分後、別のドローンが着陸態勢に入っていたDHLの貨物機に衝突したとみられている。そして8月14日、空港脇の野原で3機目が見つかった。搭載されていたのは、最大50グラムの軍用爆薬ヘキソーゲン。この事実が公になったのは、発見から3週間近くが経った8月25日、ドイツの複数メディアの報道によってだった。当局が把握してい…

2026/8/24
倉庫が燃える夜、ネット通販は誰の戦場になったのか
8月23日の日曜日、ロシア中部オレンブルク州にあるOzonの物流センターで火が上がり、従業員300人以上が建物の外へ駆け出した。Ozonはロシアで2番目に大きいオンライン通販企業で、Amazonにたとえられることも多い。日用品や家電を注文すれば数日で届く、あの仕組みを支える倉庫のひとつが、この日ウクライナのドローン攻撃を受けた場所だった。前日には隣接するサマラ州の同社倉庫でも被害が出て、複数の負傷…

2026/8/22
逮捕状は誰にでも出せる。だが、誰にも届かない
国際刑事裁判所(ICC)の所長は、日本人女性だ。名前をトモコ・アカネという。8月、彼女はアメリカ政府から制裁を科された。米国への入国を禁じられ、世界最大の経済大国における不動産取引や金融取引を凍結された。裁判官が、自分の裁く相手ではなく、裁判所の外にいる超大国から、こうした形で締め出される。これが今、国際法という制度の足元で起きていることだ。

2026/8/19
18歳への手紙、英国製ドローン、そしてガザの工程表——安全保障はどこまで境界を越えるのか
2026年1月、ドイツで18歳になった男性たちの家に、一枚の質問票が届く。「兵役に関心がありますか」という問いに答えなければならない。女性は任意だが、男性は全員が対象だ。さらに17歳から45歳までの男性は、3カ月を超えて国外に滞在する場合、軍への届け出が義務づけられる。徴兵制ではない。あくまで志願制の枠組みのなかでの措置だが、国家が一人ひとりの若者の生活に静かに手を伸ばし始めている、という事実は変…

2026/8/17
「女性なら懸賞金は2倍」——国境という線は、誰のために引かれているのか
3万ドル。米兵を殺すか捕らえてイラン軍に引き渡せば、その金額が支払われる。実行者が女性なら、報奨金は倍になる。イラン軍参謀総長アミール・ハタミ氏は8月16日、国営通信IRNAを通じてこの制度を発表した。理由として挙げたのは、「経済的に貢献したい」という国民からの「非常に多くの要望」があったからだという。

2026/8/16
海峡は誰のものか——「安全と主権」という言葉が覆い隠すもの
ワルシャワの川岸に立っていたアリナという女性は、頭上を通過するF16とF35を見上げながら、子どもたちの手を握っていた。「少し恐ろしく、少し不安な気持ちになります。普通なら戦時中に見るような機体ですから」。そう語りながらも、彼女はこう付け加えている。「でも、とても壮観です」。8月15日、ポーランドの「軍隊の日」に合わせてワルシャワで行われたこの軍事パレードには、300台の戦闘車両と約2,000人の…

2026/8/16
ヘリコプターは飛んできたのに、なぜ声は届かないのか
8月14日の金曜日、フランス南西部ランド県の空に、見慣れない機体が現れた。オーストラリアから貸与された大型の水上消火ヘリコプター、チヌークCH-47D。カナディア機の2倍の水を運べるというこの機体は、その日の午前中に初めての散水を行った。木曜からリュグロン周辺で燃え広がっていた森林火災は、すでに1,300ヘクタールを焼いていた。地球の反対側から飛んできた機体が、フランスの松林の上を旋回する。国境を…

2026/8/15
弾薬工場の爆発、動かない空母のトイレ、爆撃された列車——「国を守る」の中身は誰の生活でできているか
「翌朝、目を覚まさなければいいのに」。米空母エイブラハム・リンカーンに乗る夫から届いたこのSMSを、妻はメディアに公開した。艦は昨年11月、南シナ海での7カ月間の通常任務のために母港を出たはずだった。ところがイランで戦争が始まる直前にアラビア海へ進路を変え、それから200日以上、一度も港に寄っていない。配管が壊れてトイレとシャワーが使えず、居住区にはカビが生え、約5000人の乗組員に数週間も郵便が…

2026/8/14
ガソリンスタンドに落ちたミサイルと、冬を越せない迎撃網
ウクライナ東部イジュームで、川遊びをしていた人たちの時間が突然途切れた。近くにできたばかりのガソリンスタンドに、ロシアのミサイルが直撃したのだ。従業員のデイヴィッド・アコピャンさんは「攻撃の少し前に空襲警報が出ていなければ、給油を待つ大勢の人が時間内に避難できなかった」と振り返る。スタンドの周りにはドローン対策の網が張られていたが、それでも防ぎきれなかった。21歳のヴィオレッタ・デジナさんは、危険…

2026/8/13
助けには行けるのに、助けを呼べない国――スイスの消防ヘリが教えてくれること
コルシカ島の上空を、スイス軍のスーパーピューマが1日7時間飛び続けている。1機あたり20回以上の放水をこなし、燃え広がる森林火災を食い止めようとしている。フランスの国土なのに、そこで戦っているのはスイスの機体だ。今年、スイスは初めて消防隊員の部隊をボルドー地域にも送り込んだ。2021年と2023年にはギリシャへ、2017年にはイタリア、ポルトガル、モンテネグロへ。スイスは「駆けつける国」として、欧…

2026/8/12
毛皮のコート4,000着とドローンの影――「経済」が戦場になるとき
ロシアのSNSに、ある女性が動画を投稿した。カメラに向かって彼女が嘆いているのは、株価でも為替でもない。「毛皮のコート4,000着がなくなった」。モスクワ東方1,400キロ、オンライン通販最大手Wildberriesの巨大倉庫が、ウクライナのドローン攻撃で焼け落ちたのだ。目撃者たちは、地平線に現れたドローンがどこへ向かうか、もう驚かなかったという。7月中旬以降、同種の攻撃はすでに20回。同社は保管…

2026/8/12
死刑を廃止した国と、死刑を宣告した国――同じ火曜日に地中海の東側で起きたこと
8月11日火曜日、ベイルートの議会では死刑廃止法案が可決され、司法相は「歴史的」だと胸を張った。同じ日、ダマスカスの法廷は、ロシアに逃げ延びたまま姿を見せない元大統領バシャール・アル=アサドに、戦争犯罪と人道に対する罪で死刑を言い渡した。処罰の道具である死刑という制度を、一方は手放し、もう一方はまさにその日、最も重い相手に対して行使する。この偶然の同日性は、暴力のあとに社会がどう「正義」を組み立て…