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助けには行けるのに、助けを呼べない国――スイスの消防ヘリが教えてくれること
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助けには行けるのに、助けを呼べない国――スイスの消防ヘリが教えてくれること

2026/8/13

コルシカ島の上空を、スイス軍のスーパーピューマが1日7時間飛び続けている。1機あたり20回以上の放水をこなし、燃え広がる森林火災を食い止めようとしている。フランスの国土なのに、そこで戦っているのはスイスの機体だ。今年、スイスは初めて消防隊員の部隊をボルドー地域にも送り込んだ。2021年と2023年にはギリシャへ、2017年にはイタリア、ポルトガル、モンテネグロへ。スイスは「駆けつける国」として、欧州の火災現場に確かな足跡を残してきた。

ところが、この気前のいい隣人には、ある弱点がある。もしスイス自身が大規模な森林火災に襲われ、支援を求める側になったとき、優先順位はEU加盟国や欧州連合市民保護メカニズム(UCPM)参加国より後回しになる可能性が高い。理由は単純で、スイスはこの制度に正式加盟していないからだ。2023年にスイス議会は加盟を求める動議を可決し、政府も準備を進めているが、EUの規則自体がEU非加盟国の参加を前提に作られていないため、法改正が実現しても早くて2027年になるという。今年1月にクラン・モンタナで火災が起きた際、スイスは初めてこの仕組みを通じて支援を要請し、EU加盟国が手続きなしで特殊輸送手段や火傷患者用の病床を申し出てくれたことで、制度の有効性を実感した。だが同時に、自国だけでは特殊な資源が足りないという現実も突きつけられた。ETH Zurichの研究者クリスティーヌ・エリクセンは、もしブリュッセルがUCPM参加国とスイスのどちらを支援するか選ばなければならなくなったら「参加国が優先されると考える」と述べている。スイス連邦市民保護庁の担当者も同じ見方だ。

この話が興味深いのは、単なる制度の隙間の話ではないからだと思う。スイスは軍事的にも外交的にも中立を国是としてきた国だ。その中立性、あるいはEUと距離を置く立場そのものが、火災という物理的な危機の場面で、資源配分の優先順位を左右してしまう。主権を保つために独立性を選んだ国が、まさにその独立性のせいで、いちばん助けが必要な瞬間に列の後ろに並ばされる――これは皮肉というより、越境する危機の時代における主権の再定義を突きつけている出来事なのではないか。

フランス国内での受け止め方は、記事を読む限り比較的実務的だ。フランスやギリシャはスイスの支援を歓迎し、EUも消火用航空機やヘリコプターの戦略備蓄を増やそうとしている(現在22機と5機を保有し、さらに12機を発注中だが納入は遅れている)。今夏はスウェーデンからトルコまでおよそ7カ国が消火用航空機とヘリコプターをフランスの火災対応に投入した。つまりフランスにとって、この協力体制はすでに空気のように当たり前の前提になっている。問題は、その「当たり前」の輪の外にいる国がどう扱われるか、という一点に集約されている。

この構図を、他の関連ニュースと並べてみると、輪郭がもっとはっきりする。フランス、英国、カナダなど26カ国は8月、イランでの抗議者処刑を共同で非難した。単独の国が声を上げるのではなく、26カ国が声を揃えることで、初めて政治的な重みを持つ。ロシアの「影の船団」に対する制裁も同じ構造だ。フランスやスウェーデンが個別に船を拿捕しているように見えて、実際にはEUが7月末に承認した新たな制裁の枠組みの中で動いている。だからこそプーチン氏は、フランスやスウェーデンではなく「西側」全体への報復を警告した。彼にとってもこれは、一国対一国の話ではなく、制度対制度の話なのだ。ニコチン製品の規制も構造は同じで、フランスが2026年にニコチンパウチの販売を禁止しても、消費者はスイス国境を越えて手に入れてしまう。禁煙団体がEU全体での統一規制を求めているのは、一国の禁止だけでは危機を国境の外に追いやるだけだと分かっているからだ。

火災、制裁、処刑への抗議、たばこ規制。分野はまったく違うのに、共通しているのは「一国の決定だけでは完結しない」という一点だ。フランスという国家は、いまや単独の主権行為者としてではなく、EUという制度への参加資格を通じて危機に対応している。スイスの立ち位置がそれを逆説的に照らし出している。中立を守るということは、いざというときに列の後ろに回るリスクを引き受けることでもある。

では日本はどうか。北朝鮮は8月12日、日本海に向けて弾道ミサイルを発射した。700キロ以上飛行して海に落下したこのミサイルは、8月6日に続く1週間足らずでの2回目の発射だった。ここで注目したいのは、韓国軍がソウル、東京、ワシントンで情報を共有していると強調した点だ。つまり日本の危機対応は、日米韓という同盟のネットワークを通じて機能している。これはスイスのEUとの関係とは対照的な形だ。スイスは制度への参加資格を得られないことで支援の優先順位を下げられるリスクを負っているが、日本は同盟という二国間・三国間の枠組みを積み重ねる形で安全保障を組み立てている。EUのように「加盟国であれば自動的に資源を共有できる」という多国間の共同運用の仕組みは、この地域には同じ形では存在しない。日本が島国であることも、この違いに関係しているのかもしれない。陸続きの欧州では森林火災の煙も制裁対象の船も国境をやすやすと越えていくが、日本の危機対応は地理的に「国内で完結させる」という発想が比較的強くなりやすい、と言えるのではないだろうか。もっとも、これはニュースからの解釈であり、断定はできない。

アメリカについては、今回のニュース群の中では、同盟国としての情報共有の一角として日米韓の枠組みに現れる程度で、独自の制度的な立ち位置を測る材料は多くない。ただ、イラン処刑非難の共同声明にも、ロシアの船拿捕をめぐる制裁の構図にも、アメリカは常に主要な当事国の一つとして関わっている。同盟網と制裁の域外的な影響力を持つ国として、アメリカは「制度に参加する」というより「制度を動かす」側に立つことが多い、という印象を関連ニュースから受け取れる。

これから欧州で起きそうなことは、想像に難くない。気候変動で森林火災がさらに激甚化すれば、EUの資源はいまよりも逼迫し、優先順位の線引きはより厳しくなるだろう。スイスが2027年より前に制度参加を実現できるかどうかは、単なる行政手続きの話ではなく、次の夏にどれだけの被害を受けるかという運不運にも左右されてしまう。ニコチン製品の規制も、フランス一国の禁止だけでは国境の向こうに問題を先送りするだけだという指摘がある通り、EU全体での調和が今後の焦点になっていくはずだ。

スイスの消防ヘリはコルシカの空を飛び続けている。困っている隣人を助けることに、彼らは何の迷いもない。ただ、自分たちが困ったときに同じ速さで手が差し伸べられるかどうかは、制度への参加資格という、火とは関係のない紙の上の話で決まってしまう。主権を守るとは、すべてを自国だけで決められる自由を持つことなのか。それとも、必要なときに支援を受けられる制度に、あらかじめ参加しておくことなのか。あなたなら、どちらを選ぶだろうか。

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