「帰っていい」と言われた日、猫をキャリーケースに入れられなかった女性の話
8月3日月曜日の朝7時半、ジロンド県ル・ポルジュ。退職者のエヴリーヌ・ドリビエは、まだ誰もいない道路脇に立っていた。公式の帰宅許可は14時からだったが、彼女はそれより6時間半も早く、自宅に近い場所まで来てしまっていた。「少し楽になりました。あれは地獄でした」。同じ頃、隣町コランではイザベルという女性が、避難していた自宅への帰宅を許可されながら、あえて戻らないことを選んでいた。「猫をキャリーケースに…
日付: 2026/8/4
エッフェル塔を背にした男と、パリから去った女——「安全」はいつも同じ顔をしていない
8月3日、ロシアの反体制派ボリス・ナデジディンがテレグラムに投稿した動画には、エッフェル塔が背景に映っていた。63歳の元下院議員は「良いニュースがあります。私は生きていて、自由です。残念ながら、ロシアにはいません」と語った。この一言に、彼がどれだけの緊張を抱えて国境を越えたかが表れている。ナデジディンは「過激主義」で有罪判決を受け、ロシア当局から「外国の代理人」に指定されていた。2024年の大統領…
日付: 2026/8/4
声も、資産も、親しさも複製できる時代に、私たちは何を差し出しているのか
2025年秋のある朝、俳優ドニ・ポダリデスはいとこからの電話を受けた。「YouTubeで、あなたが哲学や自己啓発の文章を朗読しているのを見つけたよ」。ポダリデスに心当たりはなかった。コメディ・フランセーズの団員である彼は、そんな動画を撮った覚えがない。調べてみると、「Voix philosophiques(哲学の声)」という名のチャンネルが、ニーチェやニール・ポストマンの文章を、彼の声質にそっくり…
日付: 2026/8/4
星付きシェフと市長と元政務次官、そして一本の映画が同じ週に問うたこと
8月3日月曜日の朝、フランス料理界でその名を知らぬ人はいないジャン・アンベールが、警察署で聴取を受けていた。かつて「Top Chef」で優勝し、パリの名門ホテル、プラザ・アテネの料理長を務めた男である。弁護士によれば、彼は「捜査員のすべての質問に答えている」という。華やかなグルメ番組の常連が、身柄を拘束された状態で朝から取り調べを受ける――このギャップにまず目が留まる。
日付: 2026/8/4
停戦が発表された翌日も、ガザでは遺体が数えられていた
8月2日、ガザ地区中部デイル・アル・バラーフのテント村に、数十メートルにわたる大きなクレーターができていた。前夜の空爆の跡だ。ここで暮らしていた女性はフランスの記者に「私たちのテントは破壊され、何も残っていません」と語り、別の女性は「病院と薬品倉庫の隣で暮らしていました。安全区域にいるはずだったのです」と憤った。彼女たちのいた場所のすぐ近くでは、この空爆で病院の医療物資倉庫が大きく損壊し、7人が死…
日付: 2026/8/3
泳いで海岸に着いた4人と、あなたの名前がついた高速道路
マリアはスペイン領セウタの海岸で、写真を一枚撮った。移民が4人、泳いで岸に上がってくる瞬間だった。「数分前まで海岸にいたのに」と彼女はfranceinfoに語っている。「食べ物も水もないまま、街をさまようことになります。どこで夜を過ごすのでしょうか」。この問いに、答えを持っている人は誰もいない。
日付: 2026/8/3
その数字は誰が発表したのか——ガザ、モスクワ、そしてAIアイコンが同じ週に問うたもの
8月2日の日曜日、モスクワでは前夜の爆発の説明が一晩で変わっていた。土曜の夜、ロシア当局に近いとされるテレグラム・チャンネル「バザ」は、モスクワの高級レストランで起きた爆発を「厨房のガス爆発」と伝えた。だが夜が明ける前に、話は「身元不明の女性が小包に隠した手製の即席爆発装置を持って店内に入ろうとした」というものに変わっていた。死者3人、負傷者21人。店では軍や政界の要人による非公開の夕食会が開かれ…
日付: 2026/8/3
家賃2750ユーロのワンルームと、燃え尽きた別荘地が教えてくれること
ダブリンの「シリコン・ドックス」を見下ろすオフィスで、コンスタンティナという女性が自分の携帯電話を覗き込んでいる。画面に表示されているのは、アイルランド最大手の賃貸サイト「Daft」の物件情報だ。ワンルームで月2750ユーロ、別の物件は2350ユーロ、また別の物件は2400ユーロ。彼女は米国の大手企業で顧客担当責任者として働いている。それでも「給料の大半が家賃に消えるなら、生活に使えるお金はほとん…
日付: 2026/8/3
「同意しました」のチェックボックスは、あなたが理解したことを意味しない
7月、フランスでDoctolib(ドクトリブ)を使う人たちのもとに、一通のメールが届いた。オンライン医療予約サービスとして病院や診療所の予約に使われているこのプラットフォームが、利用者の人口統計データと健康データを使ってAIの研究を始める、という内容だった。反対したい人はウェブサイトのフォームに氏名と生年月日を書き込み、「情報処理・自由法第56条に基づき、再利用に反対します」という項目にチェックを…
日付: 2026/8/3
キーウの住宅街、ヨルダン川西岸の村、カリフォルニアの空——「守る」という言葉が置き去りにするもの
8月1日未明、キーウのソロミャンスキー区で、5階建ての住宅が一部損壊し、火災が発生したと報じられている。同じ夜、ダルニツキー区でも被害が確認され、死傷者が出たと伝えられている。だが実際に燃えたのは、誰かが暮らしていた住宅と、誰かが働いていた建物だった。
日付: 2026/8/2
家族という沈黙 ― 妊娠を隠した女性、帰国できない駐在員、名前を持たなかった大統領夫人たち
ヴォクリューズ県オランジュのアパートで、32歳の男性が5人の乳児の遺体を見つけた。内縁の妻がその6日前に自宅で出産していたことに動揺し、過去にも妊娠を認識していなかったのではないかと疑って調べた結果だったという。検察によれば、女性は2018年から2025年にかけて、5人の子どもを殺害した疑いで捜査対象となり、拘置された。同じ週、ロワール県サンテティエンヌでも、36歳の女性が自宅で出産した2日後、新…
日付: 2026/8/2
ガラス瓶が飛んだ夜、フランスは「表現の自由」を二つに引き裂いた
7月18日、DJバルバラ・ブッチは、開始からわずか20分でマイクを止めることになった。市当局と本人の説明によれば、観客席から意図的に投げつけられたガラス瓶が飛んできたのだという。彼女は、以前イスラエル大使公邸での行事に参加したことや、反ユダヤ主義対策を掲げるヤダン法案(後に撤回)を支持する意見書に署名したことを理由に、親パレスチナ派の活動家から標的にされていた。
日付: 2026/8/2
検索窓の向こうに何を賭けているのか——GAFAと国家、真実の値段
金曜日の夜、パリの小学校教員が自分の研修記録を管理するシステムにログインしようとしたら、いつも通りのはずの画面がどこか違って見えた——というのは筆者の想像だが、実際にその週末、フランスでは似たような不安を抱えた人が少なくなかったはずだ。7月31日、フランス国民教育省は、業務用アカウントへのなりすましによって「多数」の職員の個人データが抜き取られた可能性があると発表した。住所や電話番号、社会保障番号…
日付: 2026/8/2
「マリー・アントワネット・スタイル」横浜美術館で開幕へ ― ハローキティ、『ベルサイユのばら』とのコラボも実現
18世紀ヨーロッパにおいて、もっとも華やかで、もっとも物議を醸したファッション・アイコン――マリー・アントワネット(1755–1793)。その「スタイル」の軌跡を辿る大規模巡回展「マリー・アントワネット・スタイル」が、2026年8月1日(土)から11月23日(月・祝)まで、横浜美術館で開催される。
日付: 2026/8/1
黙とうの後に何を差し出すのか——ジロンド県の消防士の死が問う、公共サービスを支える人への「返礼」
7月31日金曜日の朝、ジロンド県の消防隊員たちが活動現場の一角に集まり、一分間の黙とうを捧げた。ある隊員はこう切り出した。「二人の同僚が命を落としました。……特に激しい森林火災と勇気と決意をもって闘っていたさなかのことでした」。名前はアンソニーとウィルフリード。二人は7月21日、ボルドー・メリニャック空港近くの藪火災の消火にあたっていて死亡した。それから10日後、まだ同じ火災現場で戦っている仲間た…
日付: 2026/8/1
2000部の新聞が売り切れた日、フランスの小さな町は何を守ろうとしたのか
オート=サヴォワ県アヌシー。人口5万人ほどのこの町で、ある地方紙が普段の倍近い部数を売り上げた。『レソール・サヴォワイヤール』という週刊紙で、通常の発行部数は約2000部。それが6月初め、突然売り上げを伸ばし、過去最高を記録したという。理由は、この新聞が1面で報じた記事だった。市の第1副市長アンソニー・グランジェール氏をレイプで告発する男性の証言を掲載したのだ。
日付: 2026/8/1
誰が「安全」を決めるのか——ガザの武装解除合意とイラクの空爆否認が突きつける、主権という境界線
「合意には、イスラエルが自らの義務を尊重し、履行することに同意しなければならないと明確に定めた条項があります。イスラエルが合意を履行しないなら、私たちも履行しません」——ハマスの交渉団メンバー、ガジ・ハマド氏はそう語った。この一文には、戦後処理という営みの本質がにじんでいる。誰かが武器を置き、誰かが軍を退く。だがその「誰か」を決める権利は、いったい誰の手にあるのか。
日付: 2026/8/1
泳いで越えた国境線ーーセウタの夜明けが問いかけるもの
夜明け前、モロッコ北部の町フニデクから、浮き輪をつけた若者や、上半身裸のままの少年たちが次々と海へ入っていく。目指す先は、わずか数百メートル先に見えるスペイン領セウタ。国境が開くといううわさがソーシャルメディアで広まり、それを信じた人々が押し寄せた。7月30日木曜日の未明、そんな光景が現実に広がった。波と岩礁の危険を冒して泳いだ末に、少なくとも9人が命を落としたと、スペイン政府の現地代表部は発表し…
日付: 2026/8/1
保険と国家のあいだで――フランスの火災が問う「再建」のかたち
ヴァール県コティニャックでは、住民のスタンさんが火災で自宅を焼失したと報じられている。何十年と積み重ねてきた暮らしの場が一夜にして灰になったとき、そこに残るのは瓦礫の重さだけではないだろう。住まいを失うということは、生活の土台そのものを奪われることであり、金銭的な補償だけでは埋まらない部分がある。
日付: 2026/7/31
「セミナーを2回開いただけだ」——国家がまなざしを向けるとき、自由はどこで止まるのか
「私は3日間のセミナーを2回運営しただけだ」。フランス海軍航空隊の元戦闘機パイロットは、そう語ったとされる。2018年と2019年、彼は南アフリカ企業から報酬を受けて中国を訪れた。それだけの説明だ。だが2025年7月23日、彼は「外国勢力との通謀」と「国家の基本的利益に関する情報の収集・提供」の容疑で司法捜査の対象となり、司法監督下に置かれた。国防機密の漏えいという訴因も加わっている。事の発端は、…
日付: 2026/7/31
血のつながりが途切れるとき、法は誰の手を取るのか
レンヌ郊外のアパートの一室に、開封されないままの保険会社の手紙が置かれている。そのそばには寝間着と眼鏡。部屋の主だった老人は2024年9月に亡くなり、それ以来時間が止まったようになっている。相続系譜調査員のオドレ・リュストルマンは、この部屋で老人の遺影を探していた。身分証用ほどの小さな写真を段ボール箱の底からようやく見つけたとき、彼女はほほ笑んでこう言ったという。「ようやく名前に顔を当てはめられま…
日付: 2026/7/31
首を絞める真似と、5つの静かな遺体――フランスの夏、「誰を守るか」の線引き
祭りの夜の短い動画が、人々を二つに分けた。
日付: 2026/7/30
森が燃える夏、デッキチェアの二人と126人の消防士のあいだにあるもの
巨大な煙の柱を背に、パラソルの下でデッキチェアに腰掛ける男女がいる。ジロンド県の湖畔で家族旅行中だった写真家が偶然撮った一枚は、今週フランス中に拡散した。
日付: 2026/7/30