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椅子は座ると壊れ、教室は37度だった――フランスの高校生が問う「教育は誰が保障するのか」
教育

椅子は座ると壊れ、教室は37度だった――フランスの高校生が問う「教育は誰が保障するのか」

パリ11区、リセ・ヴォルテールの校門前。ある生徒はこう語った。「椅子が壊れることがある。座っていると壊れる場合もある」。別の生徒は、4月末の教室の気温が36度から37度だったと証言した。もうひとりは、ラジエーターの設定が「3」のまま動かず、「年度の初めは暑さに苦しみ、年度の途中は寒さに苦しむ」と話した。これらは特別な貧困地域の話ではない。首都の中心にある高校の、ごく普通の教室の光景として報じられたものだ。

こうした証言が積み重なり、10月上旬のフランスでは高校の封鎖が10日以上続いた。10月2日金曜日の時点で全国約3,700校のうち400校以上が閉鎖され、前日には全国で約900件の抗議行動が確認された。運動は高校だけでなく大学にも広がり、警察による逮捕者は約2,000人、9月28日以降の拘留者は1,793人にのぼったという。教育相エドゥアール・ジェフレは、高校の封鎖に伴う混乱の中で40人の校長が負傷したことも明らかにしている。

生徒たちが訴えているのは、単に「もっと勉強しやすくしてほしい」という要望ではない。1クラス35人という過密学級、本来15人のはずが30人になった専門科目のグループ、教員が3か月不在でも代わりが来ない授業、天井が崩れたり壁に水が染み込んだりするセーヌ=サン=ドニ県の校舎――こうした具体例が、フランス全土の生徒たちの口から次々と語られた。そしてこの運動を支持する学生団体Fageの会長スザンヌ・ニダムは、問題を学習環境にとどめず、もっと根本的なところに置いた。「空腹で、暖房のある住居がなく、あるいは単純に高等教育から締め出されて、授業を聞くことも、そもそも勉強することもできなくなったとき、私たちは怒っているのです」。

ここが今回の運動の核心だと思う。フランスの高校生・大学生たちが怒っているのは、教室の質だけではない。食事、住居、進学の機会そのものが、家庭の経済力によって左右されてしまう現実への怒りだ。教育を「学校が提供するサービス」としてではなく、「生活そのものを支える権利」として捉え直す視線が、この運動の通奏低音になっている。

政府も、この圧力を無視できなかった。短期高等教育課程(BTS)やグランゼコール準備課程に登録料を課す案は、2027年度予算案に盛り込まれていたが、木曜の夜に撤回された。教員労組Snes-FSUの書記長ソフィー・ヴェネティテは、教育省との協議を経てもなお「保証が何もない」と述べ、10月6日のストライキを呼びかけている。一方で政府は、教育予算が2026年比で12億ユーロ増え、総額640億ユーロ余りになると説明する。これに対し、LFI(ラ・フランス・アンスーミーズ)のエリック・コケレル議員は、インフレを考慮すれば学校教育予算は実質6億4,300万ユーロ、高等教育・研究予算は9,100万ユーロ、それぞれ減少していると反論している。同じ数字を見ていても、「増えた」と「実質減った」で評価が割れる――これもまた、教育予算をめぐる政治対立の典型的な構図だろう。

さらに運動は、与野党の政治的な綱引きの材料にもなった。首相セバスチャン・ルコルニュは、封鎖運動が「暴力的な都市暴力へと転じた」と評価し、情報機関の見解を引きながらLFIと極左勢力がその「origin」だと主張した。これに対しコケレル氏は、「この人たちは口を開けば弾圧の話ばかりだ」と反論し、政府が警察官を生徒と対峙させることで「悪い役割」を押し付けていると批判している。教育現場の具体的な不満が、国家権力の行使のあり方をめぐる論争にまで広がっていく――この接続のしかたこそ、フランス政治の一つの特徴だと感じる。

この運動を眺めながら、日本の読者はどう受け止めるだろうか。日本でも、教室の冷暖房設備の老朽化や教員不足は学校現場の課題として語られることがあるとされるが、それが「学校を封鎖して政府に予算の保証を迫る」という形の大規模な政治的動員にまで発展することは一般に少ないと言われる。また、進学や生活費の不足を補う役割は、奨学金や公的支援に加えて家庭の負担に委ねられる部分が大きいとされ、「空腹だから、暖房がないから勉強できない」という訴えが、教育政策そのものを揺るがす争点として前面に出ることは、フランスほど目立たない傾向があるようだ。言い換えれば、教育へのアクセスを家庭の資力から切り離すべきだという発想そのものが、フランスでは公共の約束の一部として扱われているのに対し、日本では家庭の努力で埋め合わせる領域として、どこか不可視化されやすいのかもしれない。これはあくまで今回のニュースから透けて見える対比としての解釈であり、断定できるものではないが、考えてみる価値はあるはずだ。

今回の報道には米国の事例は含まれていないため軽々に比較はできないが、一般に教育費の負担や学生の生活支援のあり方は国によって制度設計が大きく異なるとされる。そうした違いの大きさ自体が、フランスの今回の運動を際立たせている。なぜならフランスの生徒たちは、学費の高低という制度の細部を争っているのではなく、「教育を受けること」と「生きること」を分けて考えられない、という前提そのものを政府に突きつけているからだ。

10月6日の全国的な行動日を前に、教育相は生徒団体や保護者団体、教職員組合の代表者たちとの対話を重ねている。BTSの登録料撤回という譲歩はすでに引き出されたが、過密学級や教員不足、老朽化した校舎、そして進学選抜制度パルクールサップの見直しといった、より構造的な要求への回答はまだ見えていない。予算をめぐる数字の解釈が割れたまま、ストライキと封鎖が続くのか、それとも具体的な財源の約束が示されるのか。この攻防は、フランスという国が教育をどこまで「公共の約束」として引き受け続けるのかを占う試金石になりそうだ。

教育へのアクセスを家庭の資力から切り離すために、社会は学校にどこまで生活保障の役割を託すべきだろうか。壊れた椅子と空っぽの冷蔵庫を同じ地平で語る高校生たちの怒りは、遠い国の出来事として読み流してしまってよいものだろうか。

出典

  • franceinfo (titres):Mobilisation des lycéens et étudiants : "Les promesses en l'air, ce n'est plus possible", selon la présidente de la Fage (2026/10/3)
  • franceinfo (titres):VIDEO. "Classes à 35", profs absents "pas remplacés", locaux "délabrés"… Devant les établissements bloqués, des lycéens résument leurs revendications (2026/10/2)
  • franceinfo (titres):Le Snes-FSU "appelle à la grève mardi prochain en soutien des revendications des lycéens" (2026/10/2)
  • RFI France:DIRECT – Nouvelle journée de blocage des lycées en France: plus de 400 établissements fermés ce vendredi (2026/10/2)
  • franceinfo (titres):"C'est un mauvais procès fait" à LFI "par des gens qui ne comprennent pas" le mouvement lycéen, réagit le député Eric Coquerel face aux accusations (2026/10/2)

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