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「割れないグラス」と「燻したソーセージ」――フランスは何を守ろうとしているのか
経済

「割れないグラス」と「燻したソーセージ」――フランスは何を守ろうとしているのか

フランスの学校給食で育った世代には、共通の小さな思い出があるらしい。食堂で使うグラス「Gigogne」の底に刻まれた数字を、自分の年齢だと思い込んで読み取る遊びだ。実際には、その数字はグラスを成形した金型の番号にすぎない。子どもたちは工業製品の管理番号に、自分の人生を重ねていたことになる。

このグラスを作るデュラレックス(Duralex)が、2026年10月14日(水)、またひとつ節目を迎えた。オルレアン商事裁判所が、実業家セドリック・メストン(Cédric Meston)による引き継ぎ案を承認したのだ。同じ日、遠く離れたブルターニュでは、伝統食品のandouille de Guémenéをめぐって、県庁と上院議員がそれぞれの立場から発言していた。

一方はガラス工場、もう一方は燻製の食肉加工品である。一見まったく別のニュースに見える。だが並べて読むと、同じ問いが浮かぶ。私たちが「守りたい」と言うとき、守っているのは製品なのか、技なのか、それともそこで働く人なのか。

愛されても黒字にならなかった、割れないグラスの二十年

まず事実を整理する。デュラレックスの歴史は1934年、ロワレ県ラ・シャペル=サン=メマンの工場に始まる。工業グループのサンゴバンが、通常のガラスの5倍の強度を持つ強化ガラスに着目し、食器づくりに使うことにした。ブランド名が生まれたのは1945年で、割れないグラスや皿をうたった。高度経済成長期には、手頃で長持ちする商品が集団給食施設と家庭の双方に広がったという。

人気は世界にも及んだ。カット模様のグラス「Picardie」はニューヨークのMoMAのミュージアムショップで売られ、『007』シリーズなどの映画にも登場した。2018年には、当時の社長によれば売上高の80%を海外で上げていた。

それでも財務は安定しなかった。1997年にイタリアの企業グループへ売却され、2004年以降は経営破綻の申請と買収を繰り返し、この20年ほどで司法再建手続きは5回に及ぶ。2022年には、ウクライナ戦争後のエネルギー価格高騰で数か月の生産停止に追い込まれた。ガラスは炉を燃やし続ける産業であり、エネルギー価格の影響を受けやすい。これは報道の事実から読み取れる範囲での私の解釈だ。

そこで2024年、従業員自身が会社を買い取り、協同組合として再出発した。「働く人が持ち主になる」という、ある意味もっとも素直な守り方である。ところが報道によれば、その後は社内対立、経営陣の交代、売れ残り在庫の大量保有に直面した。1年前に資金調達もしたが、収支は均衡しなかった。組合による引き継ぎから2年足らずの6月1日、同社は5回目の司法再建手続きに入っている。

ここで見過ごされがちなのは、これが「愛されなかった会社」の話ではないことだ。愛されていても、採算が取れない。ブランドの好感度と工場の収支は、別々の帳簿に載っている。

新しいオーナーが約束したことと、約束しなかったこと

裁判所が選んだのは、メストンの案だった。彼はマッキンゼーでコンサルタントとして働いたのち、植物性代替肉の企業ハッピーヴォア(HappyVore)を共同創業した。2024年以降は経営難の企業の再建に軸足を移し、2025年にはタッパーウェア・フランスを引き継いでいる。

計画の中身は具体的だ。報道によれば、従業員は約220人(記事により219人とも)で、うち155人の雇用を維持する。これは無期雇用の従業員の70%を超える数だという。総額は1,600万ユーロで、1,000万ユーロが民間資金、600万ユーロが国、サントル=ヴァル・ド・ロワール地域圏、オルレアン・メトロポールの拠出である。フリーの創業者として知られるグザヴィエ・ニエルの持ち株会社NJJ Capitalも参加する。2029年をめどに、ガス炉を電気炉へ置き換える構想も示された。メストンは「世界で最も環境に優しいガラス」を掲げている。

数字を引き算すると、約220人のうち155人が残るなら、残らない人が数十人いる。「フランス産業の象徴が存続した」という見出しの裏側には、この数十人がいる。もちろん、再建と雇用の全員維持が両立しにくいことはよくある。ただ、「ブランドが救われた」と「全員が救われた」は同じ文ではない。

同時に、この再建は純粋な民間の事業判断でもない。600万ユーロの公的資金が入っている以上、地域は「この工場に残る意味」に出資したことになる。電気炉への転換という環境投資も、エネルギー価格に翻弄されてきた過去への回答として読める。これも解釈である。

「禁止ではなく、情報提供を」――燻製の香りと衛生基準のあいだ

視点をブルターニュに移す。ギュメネ=シュル=スコルフのMaison de l'Andouilleが作るandouille de Guémenéは、燻製の工程で多環芳香族炭化水素(HAP)が生じ、欧州の衛生基準との関係で問題になっている。木材を燃やすと発生し、その一部には発がん性があることが知られている。事業者は、毎週課される複数の検査にも警戒を強めている。

モルビアン県庁は14日、事業所で「目立った改善」が確認され、農業技術研究機関の支援を受けた製造工程は、品質を保証できるよう信頼性を高める最終段階にあると発表した。有害粒子を防ぐ「ソックス」を使う技術が、状況を改善する可能性もあるという。ただし会長のブノワ・リヴァラン(Benoît Rivalan)氏は、この時点で進展を知らされていないと話している。県庁の「見通し」と、現場の「実感」の間にはずれがある。

リヴァラン氏は35年間、同じ製法を守ってきた。「もしかしたらブルターニュ人らしいところなのかもしれませんが、私は変えるつもりはありません。これまでどおりのやり方で仕事をすることを認められないのなら、やめます」。さらに、HAPが多いほど風味は良くなり、少ないほど弱まるとも述べた。これは当事者の主張であり、ここでは検証できない。ただ、安全と味が部分的に引き換えになりうるという構図が、彼の言葉から見えてくる。

上院議員のイヴ・ブルヴァン(Yves Bleunven)は、農業大臣のアニー・ジュヌヴァール(Annie Genevard)に質問した。提案は「禁止ではなく、情報提供」である。皮ごとHAPを測定するよう求める指示を撤回し、包装に情報を表示して、消費者に判断を委ねるという考え方だ。「世代から世代へ受け継がれてきた技術を損なうことなく、消費者の健康を守る」ことが目的で、andouille de Guémenéにとどまらず、職人的な食肉加工品づくりの遺産全体が問われているとも語った。

この提案の面白さは、「守る」の定義を変えている点にある。製品を無害に作り替えるのではなく、リスクを開示したうえで、食べるかどうかを消費者に選ばせる。国家が規制で守るのか、情報で守るのかという違いだ。一方で、この案が健康保護として十分かどうかは、私には判断できない。表示で足りるのか、測定を維持すべきなのか。その線引きこそが争点である。

名前だけが先に走るとき――2CVの復活

もうひとつ、同じ週のニュースを添えておく。パリ・モーターショーでは、シトロエンの2CV conceptが大きな注目を集めた。初代は1948年から1990年までに5 million台以上が売られ、新型は2028年から市販される予定で、価格は15 000 euros前後とされる。バッテリーの出力や航続距離は未公表だ。

来場者の反応は割れている。1978〜79年に2CVに乗っていたというエリアーヌは「まるでキャンディーみたい」と喜ぶ。退職者のパスカルは「おもちゃみたい」で、日曜日に出かける用だと話した。留学帰りの学生アンジェリークは、伝統の復活は評価しつつ、現代的な特徴との組み合わせには納得しきれていない。

ここでも、守られているのは何かが曖昧だ。丸いヘッドライトのような意匠か、素朴で実用本位だった道具としての性格か、それとも「2CV」という名前の記憶か。私の見立てでは、デュラレックスの再建が抱える緊張とよく似ている。ブランドの記憶は資産になるが、その記憶が現実の工場や暮らしを自動的に支えるわけではない。

三つの事例に共通する、「何を守るのか」という分岐

三つの話を重ねると、「守る」の対象は少なくとも四つに分かれる。

  • 名前:デュラレックス、2CV、タッパーウェアのような、記憶を呼び起こすブランド。
  • 技能:リヴァラン氏が35年間続けてきた燻製の製法。
  • 雇用:155人が残り、数十人が残らない工場。
  • 地域の風景:学校の食堂の食器、ブルターニュの食卓。

この四つは、ふだん一緒に語られる。しかしニュースを丁寧に読むと、ばらばらになりうることがわかる。名前は買収で残せる。雇用は部分的にしか残らない。技能は、基準の変更ひとつで揺らぐ。

日本の読者には、この構図は身近かもしれない。日本でも地場産業や伝統食品をめぐっては、地域の誇りと事業の採算の折り合いが語られることが多いと言われる。また、職人の技や郷土の味を「文化」として守ろうとする声と、衛生や効率の基準を求める声が並び立つ場面も、珍しくないとされる。ただしここで日本の個別事例には踏み込まない。フランスの特徴は、守る対象をめぐる論争が、国会質問や裁判所の判断という公の場に、これほど明確に現れる点にあるのではないか。これは私の印象にすぎないが、少なくとも今回のニュースはそう読める。

アメリカについても、確かなことは言えない。ただ、再建を担うメストンの経歴にコンサルティング会社マッキンゼーがあることは、事業判断の枠組みを考える手がかりにはなる。一般に、事業を採算と成長性で見る発想は、アメリカ的なビジネス観と結び付けて語られることが多い。彼がタッパーウェアで独立販売員のネットワークに期待をかけ、SNSでの実演も構想している点も、その延長で理解できそうだ。もっとも、彼の動機を推測するのは控えたい。今回の案には公的資金も入っており、純粋な市場の論理だけで動いているわけではない。

これから注目したいこと

今後を占うには、いくつか確認すべき点がある。デュラレックスでは、155人の雇用が計画どおり維持されるか、そして2029年をめどとする電気炉への転換が実現するか。電気炉への転換が、エネルギー価格の変動への耐性を高めるかどうかは、現時点では不明である。andouille de Guémenéでは、県庁が言う「最終段階」の改善策が現場に届くのか、そして政府が表示による情報提供という案を受け入れるのかが焦点になる。2CVについては、2028年の発売までに、15 000 euros前後という価格と、実用性への疑問に答えが出るかどうかだ。

いずれも、結果が出るまでには時間がかかる。評価の物差しを、企業が存続したかどうかだけに置くと、見落とすものがある。技能が受け継がれたか。地域に仕事が残ったか。そうした継承の度合いを測る視点を持つことが、こうした支援の成否を考える鍵になる、と私は考える。

デュラレックスの協同組合は、働く人が所有者になる道を試し、2年足らずで行き詰まった。新オーナーの案は、より多くの資金と専門性を持ち込むが、全員は残さない。どちらが正解とは言えない。

あなたの町にも、「なくなったら困る」と感じる店やブランドがあるはずだ。その名前を守ることと、そこで手を動かす人の仕事を守ることは、同じだろうか。もし違うとしたら、あなたはどちらを選ぶだろうか。

出典

  • franceinfo (titres):Du steak végétal à l'industrie du verre : qui est Cédric Meston le nouveau propriétaire de Duralex ? (2026/10/14)
  • franceinfo (titres):Traditionnelle andouille de Guémené menacée : une solution est "en passe d'être finalisée" (2026/10/15)
  • franceinfo (titres):Cantines, James Bond, redressements judiciaires… L'histoire mouvementée de Duralex, la marque aux verres incassables (2026/10/15)
  • franceinfo (titres):La reprise de Duralex validée par le tribunal de commerce d'Orléans, 155 des 220 emplois sauvés (2026/10/14)
  • franceinfo (titres):REPORTAGE. "Pour le quotidien, ça me plairait beaucoup" : la nouvelle 2CV électrique devient la superstar du Mondial de l'Auto (2026/10/14)

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