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赤字を減らすとき、誰の生活費を削るのか――パリの予算委員会で起きていたこと
経済

赤字を減らすとき、誰の生活費を削るのか――パリの予算委員会で起きていたこと

10月10日土曜日、ジェール県オーシュで開かれていたフランス農村部市長協会の総会に、セバスチャン・ルコルニュ首相から一本の動画メッセージが届いた。内容は、9000の農村自治体に総額5000万ユーロの新たな交付金を配ること、そして最も孤立した339のガソリンスタンドには県庁が個別に連絡し、軽油価格を引き下げられるよう「適した解決策」を提案すること。首相は理由をこう説明している。「住民が少なくても、維持管理すべき距離や自然空間が少なくなるわけではない。道路や小道、集落は残り続けるが、その費用を分担する住民は少なくなる」。

一見すると地味な地方対策のニュースだが、これは今フランスで進んでいる予算をめぐる綱引きの、ごく一部にすぎない。同じ週、国民議会の財政委員会では2027年度予算案の歳入部分が審議され、水曜から金曜にかけて数多くの修正案が可決された。ところがその修正を積み上げた最終版は、金曜夜の採決でほぼ全会一致で否決された。賛成したのは与党ルネサンスのみ。中道のMoDemは棄権し、共和党からオリゾン、左派の不服従のフランスから極右の国民連合まで、ほぼ全ての会派が反対に回ったのである。

なぜこんなことが起きるのか。委員会で可決された修正案の中身を見ると、答えが見えてくる。議員たちは、退職者への所得控除縮小という政府の歳出削減策を撤回させ、高所得者への追加負担を上乗せし、巨大IT企業への「GAFAM税」の税率を3%から15%へと5倍に引き上げた。その一方で、家族向けの無利子融資は所得制限を撤廃して対象を広げ、国民的貯蓄商品であるリブレAの預入上限も引き上げた。つまり各会派は、自分たちが守りたい層――退職者、中小企業、子育て世帯――への負担は拒み、巨大企業や富裕層には負担を求めるという形で、それぞれの「正義」を予算案に書き込もうとした。結果として誰もが部分的に勝ち、全体としては誰も合意できない予算案が出来上がった。これは単なる政局の混乱ではなく、フランスの予算案が会計技術である以上に、国民共同体の中で誰が守られ誰が負担するのかを定める政治文書だということの表れだろう。

この構図は、極右・国民連合の議員ギヨーム・ビゴの発言にも透けて見える。同党は5年間で1400億ユーロの歳出削減と、財政赤字をGDP比5%から3%へ引き下げる計画を掲げているが、ビゴ自身、地方自治体と社会福祉部門は中央政府の直接統制の外にあり、歳出削減が歳入減も招くという「非常に複雑な問題」だと認めている。削減を唱えることと、実際に誰の生活に手を付けるかを明示することの間には、大きな距離があるというわけだ。

この問いはフランス一国の内輪の話にとどまらない。EUレベルでも同じ構図が繰り返されている。輪番議長国アイルランドは、2028〜2034年のEU予算について、欧州委員会の当初案から1400億ユーロを削減する改訂案を示した。ドイツなど「倹約派」はさらなる削減を求め、フランスは「野心的な」予算を主張し、南欧・東欧17カ国からなる「結束の友」グループは農業・地域政策への増額を求める。アイルランド案は開発援助や行政支出、新設の競争力基金を主に削れる一方で、共通農業政策と結束政策は温存した。各国の国内予算での綱引きが、そのままEU予算の配分争いに持ち上がっているのが見て取れる。フランス国内で退職者か富裕層か企業かを巡って交渉が続いているのと同じ構造が、欧州レベルでは「どの加盟国の産業と地域を守るか」という形で再現されているのである。

日本の読者にとって、この光景は少し異質に映るかもしれない。日本も高債務と高齢化という同じ条件を抱えているが、一般的に、負担増や給付抑制は国会での激しい党派対立を経るというより、行政的・漸進的に処理されやすいと言われることが多い。もしそうだとすれば、それは財政規律の議論が弱いからではなく、「誰の負担か」という問いが正面から可視化されにくい社会構造を反映しているのかもしれない――ここはあくまで対比のための解釈であり、断定できる事実ではない。フランスの予算委員会のように、特定の階層や業種を名指しして増税・減税を競い合う光景は、良くも悪くも対立の所在をはっきりさせる効果を持つ。

アメリカの事例は、また違う角度から同じ問いを照らす。ドナルド・トランプ大統領は10月9日、ウラジーミル・プーチン大統領との間で、ウクライナ侵攻後初めてロシア産ディーゼルの米国・世界市場への供給を認める制裁例外に合意したと発表した。狙いは記録的に高騰した燃料価格の引き下げであり、11月3日の中間選挙を前に、農業機械を動かすために軽油を必要とする農村部の共和党支持層を意識した措置だと、米国政治の専門家は分析している。ここで天秤にかけられているのは、国内有権者への燃料価格という「見える負担」と、ウクライナへの連帯という「制裁の結束」という価値だ。ウクライナのゼレンスキー大統領はこれを「恥ずべきこと」と批判し、EUのカヤ・カラス外交安全保障上級代表も、ロシアに戦争資金を与えると非難した。フランスの燃料政策が農村自治体への交付金という形で「痛みを和らげる方向」に動いたのに対し、米国の燃料政策は制裁という国際的連帯を犠牲にして国内の負担を和らげる方向に動いた。どちらも「誰のための軽減か」という同じ問いへの、異なる答えである。

フランスに話を戻せば、今後の焦点は火曜日から始まる本会議での審議だ。委員会で否決された歳入部分が本会議でも同じ運命をたどれば、歳出部分を審議することなく2027年度予算案そのものが否決される可能性がある。ルコルニュ首相にとっては、農村自治体への5000万ユーロやガソリンスタンドへの個別支援のような「痛みを和らげる」施策を積み重ねながら、議会内の各会派と長い交渉を続けるほかない。EUレベルでの1400億ユーロ削減案も、来週の首脳会議で加盟国間の綱引きが続く見通しだ。

財政規律という言葉は、外からは中立的な会計上の目標に見える。しかし実際にそれを実行しようとすると、必ず「誰の負担か」という政治的な問いに姿を変える。退職者の控除か、富裕層への追加負担か、巨大IT企業への課税か、農村の交付金か、同盟国への制裁の結束か――。あなたなら、赤字削減のために最初に削られるべきは、支出と優遇と将来への投資のどれだと考えるだろうか。

出典

  • franceinfo (titres):Le Premier ministre Sébastien Lecornu annonce une nouvelle dotation de 50 millions pour les communes rurales (2026/10/10)
  • franceinfo (titres):L'Irlande propose des coupes de 140 milliards d'euros dans le budget de l'Union européenne (2026/10/10)
  • franceinfo (titres):Des millions de barils, un effet incertain sur les prix, l'Ukraine en colère... Quatre questions sur l'accord sur le diesel russe entre Donald Trump et Vladimir Poutine (2026/10/10)
  • RFI France:L'Atelier politique - Guillaume Bigot : «La première chose à faire, c’est rétablir l’ordre» (2026/10/10)
  • franceinfo (titres):Livret A, retraites, géants du numérique... Comment les députés ont modifié en commission le volet "recettes" du projet de budget pour 2027, avant de le rejeter (2026/10/10)

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