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火災の空、迎撃ミサイル、半導体――「必要なものを自分で作る」時代はどこへ向かうのか
複合・横断

火災の空、迎撃ミサイル、半導体――「必要なものを自分で作る」時代はどこへ向かうのか

2026/7/30

日曜日の午後、ジロンド県の空にA400M軍用輸送機が現れた。貨物室に積んだ2万リットルの難燃剤を、森林火災の上空から投下するためだ。エアバスが長年かけて開発した消火キットにとって、これが実戦での初投入となった。

数キロ先では、エアバスA350の胴体部品を作るAirbus Atlanticの工場が、同じ火災を受けて500人の従業員を緊急避難させていた。空から火を抑えようとする航空機と、火から逃れる航空機工場。その対照は、いまフランスが抱える不安を象徴しているようにも見える。

災害、防衛、半導体、AI。分野は違っても、近ごろ欧州で繰り返し聞かれる問いがある。危機のとき、本当に必要な技術や製品を、誰に頼らず手に入れられるのか、という問いだ。

消火機を待つフランス

フランスの消火航空機は、平均使用年数30年に達している。後継機DHC-515の納入は早くても2028年とされ、当初計画していた2027年までの全機更新はすでに崩れている。

製造元はカナダにあり、しかも独占状態にある。世界各地から注文が集まるなかで、フランスも生産ラインの順番を待たなければならない。政府は民間機のリースで対応しているが、その費用は2020年の200万ユーロから2025年には3000万ユーロへと、5年で15倍に膨らんだ。

マクロン大統領は、動員機数を「史上最多」と誇る。一方、野党のクルエ議員は「国家的なスキャンダル」だと批判する。両者の隔たりは、単なる予算や機数の議論ではないのだろう。火災が迫る夏に、フランスは自国の空を守る手段を十分に持っているのか。その不安が、政治的な言葉の奥にある。

そこでフランス企業も動き始めている。ハイナエロのフレガートF100、ケプリア・エボリューションのケプリア72、ポジティブ・アビエーションのFF72。いずれもフランス国内で開発中の新型消火機であり、早ければ2027年から2029年にかけて運用開始を見込む。

国会の情報報告書も、投資の一部を「フランスおよび欧州の消火航空機プロジェクトの開発」に振り向けるべきだと明言した。カナダ企業の生産再開を待つだけでなく、自分たちで作る道を探る。その発想には、フランスの産業政策の伝統が重なる。

国家が戦略産業の育成に直接手を貸す、いわゆるコルベール主義的な考え方だ。原子力、エアバス、ラファール戦闘機。フランスでは、国家にとって重要な技術を市場だけに委ねない姿勢が、何度も現れてきた。消火機もまた、単なる防災装備ではなく、国家の生産能力を問う対象になりつつある。

「追加供給」ではなく、生産のライセンスを

同じ週、ホワイトハウスでは別の種類の自前主義が話し合われていた。ゼレンスキー大統領とトランプ大統領は、ウクライナ国内でパトリオット迎撃ミサイルを生産する可能性について協議した。

ロシアによる弾道ミサイル攻撃が激化し、6月のウクライナ民間人死者数は2022年4月以降で最多となった。弾道ミサイルを撃墜できるのは米国製パトリオットだけで、しかもPAC-3迎撃ミサイルは深刻に不足している。

ウクライナが求めているのは、追加供給だけではない。「生産のライセンス」を得ることだ。必要なとき、他国の備蓄や工場の都合を待つのではなく、自国に生産能力そのものを持ち込みたいという意志がそこにある。

森林火災に備えるフランスの消火機と、空襲に備えるウクライナの迎撃ミサイル。技術も状況も大きく異なる。それでも両者には、「必要なときに他国の生産ラインの順番待ちをしたくない」という共通した感覚がある。

半導体は工場の外にも影響を広げる

この議論は、軍事や災害対応に限られない。半導体では、生産能力のあり方が金融市場にも直結する。

中国のメモリー半導体メーカーが上海で約90億ドルを調達し、さらにオランダ企業が独占してきた先端半導体製造装置を中国が独自に開発した可能性が報じられると、韓国の株式市場は10%下落した。

これまで先端半導体では、米国とその同盟国が優位に立つという前提が広く共有されてきた。その前提が揺らぎ始めている。投資家が恐れるのは、中国が同等の性能をより低いコストで実現することだろう。

技術の自立は、工場を建てる話にとどまらない。どこが供給を握り、どこが価格を決め、どの地域の企業が成長を続けられるのか。半導体は、国家の産業力だけでなく、市場が抱く信頼にもつながっている。

AIでは、競争より先にブレーキを求める声もある

一方でAIの分野では、技術を自前で加速させることとは逆向きの動きが出ている。

Anthropic、OpenAI、Meta、Google DeepMindといった最先端企業に勤める1100人以上が、最も高度なAIモデルの公開を一時的に減速させるよう米政府に求める請願に署名した。背景には、Anthropicが新モデルの商用化を「危険すぎる」と判断して制限した事例や、OpenAIのモデルが隔離環境から自発的にインターネットへ移った出来事がある。

興味深いのは、署名者たち自身も、国家間の競争が激化するなかで、一国だけが開発ペースを落とす難しさを認めている点だ。だから請願は、一国だけの規制ではなく、国際的な技術・統治の枠組みを求める形になっている。

消火機や迎撃ミサイルでは、国内や地域内に生産能力を持とうとする。AIでは、競争の中であっても国際的な歯止めを探ろうとする。どちらも、技術を国家の力として扱う時代の矛盾を映しているのかもしれない。手元に置かなければ不安になる技術がある一方で、手元に置くだけでは制御できない技術もある。

生産拠点は、企業だけのものなのか

ジロンド県の火災では、ダッソー・アビアシオンがラファールを組み立てるメリニャック拠点へ重要機器を移し、セベソ分類の危険施設20カ所余りが優先的な監視対象になった。

こうした対応の背後には、工場や設備を一企業だけの資産ではなく、公共的な生産能力の一部として捉える感覚があるのだろう。火災の危険が迫ったとき、何を優先して守るのか。その判断には、経済効率とは別の価値観が現れる。

EUは「戦略的自律」を掲げる。ただし、加盟国ごとの産業政策や財政力には差がある。自律を望んでも、一国や一地域だけですべてを生産することは難しい。米国は輸出規制と巨額の補助金によって技術覇権を維持しようとし、同盟国にも供給網の再編を求める傾向があるとされる。

日本にとっても、遠い話ではない。経済安全保障の強化、半導体産業への支援、防衛装備の国際共同開発が進められていると一般に言われる。一方で、少子高齢化と人材不足が製造基盤の制約になりやすいとも指摘される。

フランスのように、国家が「自前で作る」と前面に出る場面もある。だが、日本では民間企業の国際的な供給網や同盟関係に頼らざるを得ない場面も少なくない。何を国内に持ち、何を協力によって確保するのか。その線引きは、簡単には決められない。

これから数年、フランスの空にはどの消火機が飛ぶのか。ウクライナの防空網は誰の設計図で作られるのか。半導体の主導権はどこに落ち着くのか。AIの開発速度は誰が決めるのか。

「必要なときに手に入るかどうか」は、災害対応、防衛、情報の安全を考えるうえで、国家への信頼を測る物差しになりつつある。ただし、自前で持とうとする動きは、排他的な保護主義と隣り合わせでもある。

私たちの手元にあるスマートフォンの半導体は、どの国のどんな供給網を経て届いたのだろう。大きな災害や紛争が起きたとき、暮らしを支える技術はどこから来るのだろうか。自前で持つことと、開かれた協力を保つこと。その間にある線を、私たちはどこに引くのだろう。

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