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グーグルのAIを消す方法が拡散する国で、報道は生き残れるか
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グーグルのAIを消す方法が拡散する国で、報道は生き残れるか

2026/8/5

「グーグルのAIを消すための、とても簡単なチュートリアル」。そんな出だしで始まる動画が、この夏フランスのソーシャルメディアで次々と再生されている。7月22日以降、グーグルで何かを検索すると、見慣れたリンクの並びより先に、AI「ジェミニ」が生成した要約がまず目に飛び込んでくるようになった。多くの利用者はそれを消したがっている。便利なはずの機能を、わざわざ手間をかけてオフにしようとする人が、なぜこれほど増えているのだろうか。

理由の一つは単純で、AIの回答が時々おかしいからだ。「名前が最も長い果物は何か」と尋ねられたグーグルのAIが「リンゴ」と答えた、という笑い話のような実例がTikTokで拡散している。ある調査会社の推計では、グーグルのAIは1時間に1000万件もの誤った回答を出しているという。もう一つの理由はもっと切実だ。AI要約が検索結果の先頭に居座ることで、実際にウェブサイトを訪れる人が減っている。米ピュー・リサーチ・センターの調査によれば、AI要約が提示されると、利用者がリンクをクリックする確率はほぼ半分に落ち込む。広告収入や購読者獲得に頼るメディアにとって、これは死活問題になりうる。読者はAIの一言で満足してしまい、その先にある記事、そして記事を書いた人や組織にまで、たどり着かなくなる。

ここで立ち止まって考えたいのは、これが単なる「便利な検索機能への不満」では終わらない問題だということだ。同じ時期にフランスで報じられた、一見無関係な三つのニュースを並べてみると、共通する不安の輪郭が見えてくる。

ひとつは、欧州議会議員ラファエル・グリュックスマン氏とジャーナリストのレア・サラメ氏を標的にした偽情報工作だ。フランスのメディア「Blast」を装った偽サイトが作られ、AIで生成した音声を使った動画まで用意されて、両氏が汚職に関与したかのような虚偽が拡散された。フランスの国家防衛・安全保障総事務局は、これをロシア軍参謀本部情報総局が指揮する「Storm-1516」というネットワークによる攻撃だと確認したと、グリュックスマン氏自身が明らかにしている。ロゴやなじみのある顔が映っているというだけで動画を信じてはいけない、とジャーナリストのサロメ・サケ氏は呼びかけた。だが、その呼びかけ自体が、私たちの多くが日頃どれほど「見た目」で情報の真偽を判断しているかを裏返しに示してもいる。

ふたつめは、スーパー大手インターマルシェで起きたサイバー攻撃だ。オンライン注文サービス「Drive」に関連する顧客データが不正アクセスを受け、氏名、住所、電話番号、生年月日、ポイントカード番号など約28万7605人分の情報が流出した。銀行情報やパスワードは無事だったとされるが、企業がどれだけ丁寧に顧客データを扱っていても、外部からの攻撃一つで信頼の土台が崩れうることを、この一件は示している。

みっつめは、少し毛色が違う。国民議会の公共視聴覚部門に関する調査委員会で報告担当を務めたシャルル・アロンンクル議員が、メディア企業ラガルデール・ニュースの経営陣から示された質問リストを使い、審議に影響を与えたのではないかと告発された件だ。金融検察局は、国会の調査委員会には該当する罪名を適用できないうえ、不当な利益を受け取った証拠も不十分だとして、捜査自体を行わずに終了させた。告発した側は、議員の姿勢がボロレ系企業の意向と重なっていたと反論しているが、制度上は「政治的な見解の表明」として処理されてしまう。

AIの誤答、外国発の偽情報、企業のデータ流出、議員の利益相反疑惑——これらは扱う対象も深刻さもまるで違う。しかし並べてみると、どれも「情報がどこから来て、誰がその正しさに責任を持つのか」という同じ問いに行き着く。グーグルのAI要約は出典を曖昧にしたまま結論だけを差し出す。偽サイトはメディアの見た目を借りて信頼を横取りする。流出したデータは、本人の知らないところで顧客情報が扱われていた事実を露呈する。そして議員の疑惑は、疑わしい行動があっても既存の法律の枠組みでは裁けないことがある、という制度の隙間を見せつける。信頼という土台を支えているのは、実は利用者の注意力だけではなく、プラットフォーム、報道機関、企業、そして政治家それぞれが引き受けるべき説明責任なのだ、という当たり前の事実を、この夏のフランスは立て続けに突きつけられている。

フランスではこうした問題が公に議論の俎上に載りやすい土壌がある。CNIL(情報処理と自由に関する国家委員会)のようなデータ保護機関があり、インターマルシェは実際にパリ検察への告訴とCNILへの届け出を行っている。金融検察局も、たとえ「証拠不十分」という結論であっても、議員の行動を捜査対象として検討する手続きを踏んでいる。ロシアの偽情報工作についても、国家防衛・安全保障総事務局という公的機関が関与を確認し、それを政治家自身が公表するという経路が存在する。制度が万能だとは言えないし、今回もアロンンクル議員のケースは不起訴に終わった。それでも、疑わしい行為を検証する窓口があること自体は、社会が「誰かが説明責任を負うべきだ」という前提を共有していることの表れだろう。

日本の読者にとって、この構図はどこか他人事ではないはずだ。日本でも検索やSNS、まとめサイトを通じた情報接触は年々強まっているとされる一方、生成AIが検索結果の入口に立つことの是非や、それが報道機関の収益にどう影響するかをめぐる制度的な議論は、まだ緒に就いたばかりだと言われることが多い。フランスでAI要約への反発がチュートリアル動画という形で可視化されたように、日本でも同種の不満はいずれ表面化するかもしれない。そのとき、私たちは「オフにする方法」を探すだけでなく、誰が出典を示し、誰が誤りを訂正する責任を負うのかを、社会として問い直す局面を迎えるのではないだろうか。

余談めくが、同じ週にフランスの検証番組「Vrai ou Faux」は、蚊がなぜ特定の人を好んで刺すのかという素朴な疑問を取り上げていた。血の味が甘いから、という俗説は誤りで、実際は二酸化炭素や体臭の成分が手がかりになっているという。虫よけブレスレットやスマートフォンアプリの効果には科学的根拠がないことも、専門機関のデータをもとに丁寧に否定されている。これは一見、AIや偽情報の話とは無関係に見える。しかし、こうした地道な事実検証が日常のコーナーとして続けられていること自体が、「何が本当かを確かめる作業には手間がかかる」という当たり前の前提を、読者との間で確認し続ける営みなのだと思う。AIの要約はその手間を一瞬で肩代わりしてくれるように見えるが、肩代わりされた手間の先で、誰が責任を取るのかは誰も肩代わりしてくれない。

便利な要約に頼るほど、情報の出所を確かめ、誤りを正す責任は誰が負うべきなのだろうか。あなたがボタン一つでAI要約を消したとき、その先で待っているのは、誰が書き、誰が検証した記事だろうか。

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