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「嫌だ」と言えなかった証言を、社会はどう受け止めるのか――フランスで重なる権力と同意の問い
editorial

「嫌だ」と言えなかった証言を、社会はどう受け止めるのか――フランスで重なる権力と同意の問い

2026/7/24

「嫌だ」と言えなかったことは、同意したことになるのだろうか。

性暴力をめぐる事件では、いつもこの問いが残る。声を上げるまでに長い時間がかかる人もいる。相手の富、年齢、立場、専門性、あるいはオンライン上での影響力が大きいほど、その沈黙は深くなりやすい。

フランスではこの夏、異なる場所で起きた複数の事件が報じられた。国際的な人脈を持つ富豪の周辺、地方の日常、成人向けプラットフォーム、そしてSNS時代の著名人。それぞれの事件は別のものに見える。だが、そこには「拒絶しにくい関係」が生まれる仕組みという、共通した影がある。

証言の前に失われる時間

2000年、フロリダ州パームビーチ。16歳のヴァージニア・ジュフレは、マー・ア・ラゴのスパで働いていた。そこでギレーヌ・マックスウェルに声をかけられ、その夜からジェフリー・エプスタインの「ネットワーク」に組み込まれていった。

「エプスタインからの称賛が、私の唯一の誇りの源だった」

ヴァージニア・ジュフレは、死後に刊行された著書『Nobody's Girl(誰のものでもない娘)』にこう記している。フランスのCity Editionsから刊行されたこの書は、英国でベストセラーとなり、2025年のブリティッシュ・ブック・アワードで年間最優秀書籍賞を受賞した、とfranceinfoが伝えている。そしてヴァージニア・ジュフレは今年4月、41歳で自らの命を絶った。

彼女の死から三ヶ月も経たないうちに、フランスでもエプスタイン事件をめぐる一人の人物が死亡した。エプスタインのフランス側関係者として少なくとも6件の告訴を受けていた69歳のダニエル・シアドが、パリ郊外コロンブの自宅で死亡しているのが発見された、とfranceinfoは報じている。

死因は心停止とみられている。ナンテール検察は司法解剖を要請し、状況確認のための捜査を始めた。

告訴人や弁護士が強い憤りを示しているのは、シアドがフランスの司法当局から一度も事情聴取を受けていなかったためだ。2月から人身売買取締中央局(OCRTEH)に捜査が委ねられていたにもかかわらず、である。2022年にサンテ刑務所で死亡したジャン=リュック・ブルネルに続き、また主要な容疑者が証言台に立たないまま亡くなった、とfranceinfoは伝えている。

この事件が突きつけるのは、「富豪の犯罪」という言葉だけでは収まらない問題だ。被害を受けた女性たちは、証言に至るまで何年も、あるいは何十年もを要した。そして声を上げたときには、主要な加害者や仲介者がすでに死亡していることもある。

ジュフレの著書には「約1,200人の女性たち」という記述がある。その数は、制度が把握できた範囲がいかに限られているかを思わせる。

地方の日常に潜む沈黙

同じ週、フランス北部のソンム県でも、別の事件が伝えられた。

74歳の男が、2001年から2026年にかけて2歳未満から12歳前後の17人の未成年者に性的暴行を加えた疑いで正式捜査の対象となり、勾留された。ICI Picardieがfranceinfoの情報として伝えている。

男に前科はなかった。最初の告訴が提出されたのは7月14日だった。捜査員が最初の証言を「重く受け止め」たことで、被害者が次々と特定されていったという。プール内や、男が子どもの面倒を見ていた場面での暴行が疑われている。

エプスタイン事件とソンム県の事件では、舞台が大きく異なる。片方には世界的な富と人脈を背景にした国際的なネットワークがあり、もう片方には地方の一個人による四半世紀にわたる犯行がある。

それでも、最初の証言が出てくるまでに長い時間がかかったことは共通している。被害者が「嫌だ」と言えない、あるいは言っても受け止められないかもしれないと感じる関係があったのではないか。その点で、二つの事件は遠くない。

権力は、肩書きや財産だけで生まれるものではない。子どもの世話を任される立場、周囲から信頼されていること、日常のなかで相手が占める存在の大きさもまた、拒絶を難しくする力になりうる。

プラットフォームは「場所」にすぎないのか

フランスではさらに、ジロンド県で撮影された集団強姦事件に関連し、パリ検察が成人向けプラットフォーム「Wyylde」を対象とした捜査を開始した。

フランスの報道によると、主な容疑者とされるChristophe B.は、このプラットフォームを通じて、歴代の複数の交際相手を集団で強姦するための参加者を募っていたとされる。

Christophe B.の自宅から押収された数十本の動画を解析したボルドー検察は、女性たちが同意していなかったことが確認された、と述べている。「苦痛の叫び声」についても言及した。現在19人が正式捜査対象となり、6人の被害者が確認されているとfranceinfoは伝えている。

Wyylde側は、違法コンテンツを直ちに削除して当局に通報し、捜査に協力すると表明している。一方でパリ検察は、「組織的犯罪集団による違法な取引を可能にするオンラインプラットフォームの提供」や、「犯罪または違法行為を防止することを故意に怠ったこと」などを容疑として捜査を開始したと発表した。

ここで問われているのは、プラットフォームが単なる「場所」なのか、それとも利用者の行為に対して一定の責任を負いうるのか、という点だろう。

欧州では、巨大プラットフォームに違法コンテンツへの対応を求める議論が続いている。だが、性的な出会いを掲げる場で、同意と強制の境界をどう見極めるのかは、投稿の削除だけでは解けない問題かもしれない。誰かが助けを求める前に、危険の兆候をどう受け止めるのか。事業者、捜査機関、利用者の役割はどこまで及ぶのか。問いは広がっている。

影響力がつくる支配

同じ時期、アンドリュー・テイトをめぐるニュースもフランスで報じられた。

英国当局から強姦、性的搾取を目的とした人身売買、暴行の疑いで手配されていたテイト兄弟が米フロリダで逮捕され、ホワイトハウスは英国への引き渡しに反対しないと表明した、とfranceinfoは伝えている。アンドリューには42件、トリスタンには17件の罪状が突きつけられているという。

テイト兄弟は、いわゆる「マノスフィア」の象徴的な存在として知られる。オンライン上で発信される男性性や支配をめぐる言葉が、現実の性的支配とどのように結びつくのか。この事件は、その問いをあらためて浮かび上がらせる。

弁護士は「政治的動機による逮捕」と主張している。ホワイトハウスは介入しない姿勢を示した。捜査や裁判の行方を見守る必要はある。それでも、著名人の発信力が大きくなった時代に、影響力そのものをどう捉えるかという問題は残る。

「弱さ」ではなく、関係の問題として

富、年齢差、専門的資格、オンライン上の影響力。これらはすべて、被害を受けた側が「嫌だ」と言うことを難しくしうる非対称な力だ。

ヴァージニア・ジュフレは「エプスタインの欲望だけが重要だった」と書いた。それは彼女の「弱さ」として片づけられるものではないだろう。16歳の少女が世界的な富豪に「選ばれた」瞬間、その関係にはすでに大きな心理的な差が生まれていたと考えられる。

日本にも、この問題と無関係ではいられない場面がある。医療現場、学校、芸能界、スポーツ組織。職業的な権威を持つ相手に異議を申し立てることには、大きな負担が伴いやすい。「嫌だ」という言葉が、沈黙のうちに飲み込まれてしまうこともある。

フランスでも制度が十分に機能するとは限らない。エプスタイン事件の関係者の死が示すように、事件が広く知られていることと、司法が必要な時に動けることは別の問題だ。

ただ、ソンム県の事件では、子どもや性暴力被害者からの聴取を専門とする隊員が動員され、最初の証言を「重く受け止め」たことが捜査の広がりにつながった。証言する側に勇気だけを求めるのではなく、社会がその言葉を受け止める仕組みを持てるかどうか。その違いは小さくない。

AIやプラットフォームが親密な関係や専門サービスを媒介する割合が増すなか、同意の確認と記録、通報経路、証言者の保護を誰の責任として設計するのかという問題も重くなる。個人の注意や勇気だけに委ねるには、関係の力の差があまりに大きい場合があるからだ。

ヴァージニア・ジュフレは2009年から証言を続け、エプスタインとマックスウェル、ブルネルの逮捕・起訴につなげた。しかし彼女自身は41歳で死んだ。ダニエル・シアドは一度も事情聴取を受けずに死んだ。

制度は、被害者が声を上げる前に、どれだけ多くを失わせてしまうのか。

相手の名声や専門性の前で「嫌だ」と言えなかった人の言葉を、私たちはどう信じるのか。日常の関係のなかにも、声を上げにくくする力の差はないだろうか。その問いは、遠い国の事件を読む私たちにも静かに向けられている。

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