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2ユーロの抽選券と、休暇という権利ー誰がケアの代償を払うのか
社会

2ユーロの抽選券と、休暇という権利ー誰がケアの代償を払うのか

10月9日金曜日の朝、パリでは一枚2ユーロの抽選券がオンラインで売り出された。慈善団体レスト・デュ・クールが来年4月にカジノ・ド・パリで開くコメディー公演「レ・ザンフリュール」の抽選券だ。当選すれば2人分の入場券がもらえ、50万枚が売れれば最大100万ユーロが集まる計算になるという。コメディアンのジャリが呼びかけ人となり、ルドゥアン・ブゲラバやケヴ・アダムスら人気芸人が出演を予定している。利益はすべて、冬を越せない人々への食料支援など団体の社会活動に充てられる。

同じ日、パリの国民議会の議場では、まったく違う種類の「対応」が可決されていた。性暴力やセクシュアルハラスメント、性差別的行為の被害を受けた従業員に対し、医療・司法・行政の手続きのための特別休暇を認める制度だ。男女平等担当相のオロール・ベルジェは「現在は何もないが、明日からは被害者が休暇を取る権利を持つことになる」と述べた。国民連合とその同盟勢力は反対したが、議場の大勢は賛成に回った。

この二つのニュースを並べてみると、ケアや被害からの回復を社会がどう扱うかについて、まったく異なる二つの発想が同じ日に動いていたことが見えてくる。一方は、善意ある個人の寄付と娯楽を通じて資金を集める仕組み。もう一方は、被害者が誰かの温情を待たずに行使できる、法律上の権利としての休暇だ。どちらも悪いことではない。ただし後者が広がれば、ケアや回復は「たまたま優しい人に出会えるかどうか」ではなく、「誰もが使える制度かどうか」の問題になる。

この違いが切実さを増すのは、ちょうど同じ週にシェール県ブールジュのカトリック系小学校で起きた事件を知るときだ。障害児支援員として8年間勤めていた男が、15歳未満の女児に性的暴行を加えた疑いで予審手続きに入った。女児は帰宅後に痛みを訴え、医師の診察で負傷が確認されたという。学校側では教区の責任者と心理士が保護者に説明を行ったと伝えられている。被害者が子どもであるため、国民議会が可決したばかりの休暇制度がそのまま当てはまるわけではない。しかしこの事件は、被害からの回復という作業が、謝罪や説明といった儀礼だけでは終わらず、継続的な医療や司法対応を必要とすることを改めて示している。そうした対応を支える仕組みが、学校という一つの組織や、個々の家庭の努力だけに委ねられてよいのかという問いが、ここにはある。

さらに視野を広げると、ガザの避難民キャンプの報告が、家族という単位そのものが崩れたときに何が起きるかを教えてくれる。国連によれば、イスラエルによる軍事作戦が続くガザでは、女性の4人に1人が夫と離れ離れになり、一人で家庭を支えているという。ガザ社会開発省の集計では、寡婦の数は戦前の2万人余りから5万人へと増えた。伝統的に家父長制が強い社会で、夫を失った女性と子どもを守るため、寡婦専用の避難民キャンプが設けられている。そこで暮らすイスラム(Islam)という女性は、性的暴行を受けそうになり、娘についての悪いうわさに苦しんだ経験から、今ではキャンプの警備責任者として他の一人親の女性たちを支える側に回っているという。家族や夫という保護者を失った人々が、公的な保護がほとんど機能しない状況の中で、互いに支え合う仕組みを自力で作り上げている。これは称賛すべき連帯であると同時に、本来であれば公的な保護が担うべき役割を、被害を受けた当人たちが肩代わりしているという現実でもある。

ここで見過ごされがちなのは、こうした権利や保護の制度が、常に財政の制約と隣り合わせだということだ。同じ週、ベルギーのブリュッセルでは数万人が緊縮財政に反対して行進した。デ・ウェーフェル首相の連立政権は、2029年までに100億ユーロの歳出削減を協議しており、デモの終着点付近では投石や放火が起き、警察は放水砲と催涙ガスで対応、約20人が逮捕されている。この抗議そのものはケアの制度とは直接関係しない。しかし、休暇制度や被害者支援、寡婦への保護といった仕組みを維持し拡充するには当然ながら予算が要る。財政が厳しくなるときに最初に削られやすいのが、こうした「見えにくい」支援であることは、想像に難くない。これは事実関係を踏まえた上での筆者の見立てだが、フランスが性暴力被害者の休暇を制度化した同じ時期に、隣国で緊縮への抗議が噴き出していたことは、権利の拡張と財政の縮小が綱引きを続ける構造を象徴しているように思える。

日本に目を転じれば、介護や被害回復の負担が家族の献身に委ねられがちだという指摘は以前からある。働きながら家族の介護を担う人が仕事を続けられるかどうかという課題や、家族が責任を負うべきだという規範が、支援を求める行動を遅らせることがあるとされる。アメリカでは、雇用主が提供する休暇や保障の有無が会社によって大きく異なり、慈善団体への依存度も高いと言われることが多い。フランスが特別休暇という形で「権利」を明文化した一方で、レスト・デュ・クールのような慈善公演が同じ国で同時に走っているという事実は、権利としての制度と、善意に頼る慈善とが、同じ社会の中で補い合いながら共存していることを示している。

ケアや回復を支える仕組みが、家族の愛情や篤志家の善意だけに頼るものであり続ける限り、支える側にも支えられる側にも、見えない疲弊が蓄積していく。ガザの寡婦たちが自分たちでキャンプを運営せざるを得なかったように、公的な保護が及ばない場所では、結局いちばん弱い立場の人が、いちばん重い役割を背負うことになる。フランスの休暇制度も、ベルギーの緊縮財政の行方も、どちらも「誰がケアの代償を払うのか」という同じ問いをめぐって揺れている。

あなたの身の回りで、誰かの介護や回復を支えているのは、制度なのか、それとも誰かの献身なのか。その境界線を、社会はどこまで引き直せるだろうか。

出典

  • franceinfo (titres):En Belgique, des dizaines de milliers de personnes manifestent à Bruxelles contre la rigueur budgétaire, le défilé émaillé de violences et de dégradations (2026/10/9)
  • franceinfo (titres):Un homme accusé d'avoir violé une petite fille dans une école catholique dans le Cher mis en examen (2026/10/9)
  • franceinfo (titres):REPORTAGE. À Gaza, un camp de déplacés réservé aux veuves et à leurs enfants (2026/10/9)
  • franceinfo (titres):L'Assemblée nationale adopte un congé pour les salariés victimes de violences sexuelles et sexistes, dans le cadre de la loi intégrale (2026/10/9)
  • franceinfo (titres):Après "Les Enfoirés", les Restos du cœur vont lancer "Les Enflures", un spectacle d'humour (2026/10/9)

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