サステナブルな「フランス・テール・ド・レ(France Terre de Lait)」

ミルクの国、フランス
チーズを含む乳製品の未来を見据えて取り組む
サステナブルな「フランス・テール・ド・レ(France Terre de Lait)」

国連・国連食糧農業機関(FAO )が 2030 年を目標に推進している SDGs (Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)の活動が様々な分野で取り組まれている中、フランスの酪農においても SDGs に配慮した牛乳の生産に尽力しています。例えば、牧草を食べる年間あたりの最低日数が定められた放牧牛のミルクや遺伝子組み換え作物の餌を与えない牛のミルクを生産すること、また、酪農家に対して最低限の収入を保証することで持続可能な酪農を目指すことなどが挙げられます。

CNIEL (フランス全国酪農経済センター)はこうした状況の中、「フランス・テール・ド・レ(France Terre de Lait) 」という施策を展開しています。チーズに代表される乳製品は、フランスの優れた食の文化遺産の中心的存在。今回は、「フランス・テール・ド・レ」のステークホルダーに対して投げかけた 10の質問を通じて、乳製品の未来を見据えた CNIEL のサステナブルな活動をご紹介します。

Q1 「フランス・テール・ド・レ(France Terre de Lait)」とは?

「フランス・テール・ド・レ」は、経済的、社会的、環境的な課題を乳業の持続可能性の中心に据えたいという願いを CNIEL が施策として具現化したキャンペーンです。国際規格 ISO26000「社会的責任」の創設原則を尊重しており、2025 年を一つの目標に定め、進捗状況などを毎年発表しています。

Q2 「フランス・テール・ド・レ」の理念の原則となっているものは何ですか?

フランスの酪農や乳製品の素晴らしさを紹介し、長年の経験に裏付けられた乳業モデルを推進し続けるために、「フランス・テール・ド・レ」では、フランスの乳業関係者の集団的かつ自発的なコミットメントを定めています。すべての施策は、以下の 4 つの主要な原則に基づいています。

(1)責任の所在を明らかに
フランスでは毎日、牛乳、チーズ、バター、クリーム、ヨーグルトといった乳製品が生産されています。これらの乳製品は、フランスや世界の人々にとって日常生活の一部となっているものなので、すべての消費者に満足してもらうために、酪農家、加工業者、流通業者、小売業者など、乳製品業界のすべての関係者が責任を持って尽くすことを大切にしています。

(2)継続的改善を怠らない
乳製品業界のすべての関係者は、常に業務を改善し、新たな課題に取り組むよう努めています。「フランス・テール・ド・レ」は、フランスで生産されるすべての乳製品が高品質基準を満たし、すべての関係者の専門知識を反映していることを保証する“署名”のようなものです。

(3)透明性のある取組み
乳製品の価値を示すために、フランスの乳業界は次の4つの重要な分野で透明性のある取り組みを行い、それを保証することを約束しています。
① 経済的および社会的分野
② 食品安全の分野
③ 栄養に関する分野
④ 責任ある生産に関する分野

(4)対話の自由を重んじる
持続可能な開発目標へのアプローチは、消費者や社会全体を含むすべてのステークホルダーとの継続的
な対話に基づいています。

Q3. Q2(3)「透明性の取り組み」で挙げられた 4 つの分野について、もう少し詳しく教えていただけますか?
4 つの分野は、パフォーマンス(活動)の方向性を網羅したもので、言わば業界の優先事項を表しています。
⓵経済的及び社会的分野:すべてのステークホルダーが適切な生活を送れるように。

②食品安全の分野:消費者からの食品の安心・安全への信頼が最優先!

③栄養に関する分野:バランスのとれた食生活における乳製品の重要な役割を認識してもらうための取り組み。

④責任ある生産に関する分野:動物福祉(アニマル・ウェルフェア)や環境保護にまつわるアプローチが優先事項。
いずれも、フランスのみならず世界とつながった活動となるため「フランス・テール・ド・レ」は、 SDGsとも連動した内容の取り組みが行われています。

Q4 国連サミットで採択された持続可能な 17 の開発目標 SDGs とも連動している点について、教えてください。
「透明性のある取り組み」で挙げられた 4 つの分野におけるパフォーマンス(活動)には、さらにそれ
ぞれ 2 つのコミットメント(公約)があります。
合計で8つとなるコミットメントは測定・定量化が可能な指標に基づいており、 2025 年に向け「すべての人にとってより良い、より持続可能な未来を創造する」という共通の目的のもと、国連サミットで採択された持続可能な 17 の開発目標(SDGs)のうち、11 の目標を包含しています。

(1)経済的・社会的なパフォーマンス
①すべてのステークホルダーへの支払い能力の向上
半数以上の酪農家がフランスの給与水準の平均値を上回る収入を得ている:G10(人や国の不平等をなくそう)酪農業の業績向上(技術革新、投資など):G8(働きがいも経済成長も)、G9(産業と技術革新の基盤をつくろう)

② 魅力的な産業のためのすべてのステークホルダーの労働条件の改善
職場での生活の質の測定と改善(認識、雇用保障、トレーニング、職場での幸福度など) :G3(すべての人に健康と福祉を)、G5(ジェンダー平等を実現しよう)、G8(働きがいも経済成長も)、G4(質の高い教育をみんなに)

(2)食品安全のパフォーマンス
①牛乳に抗生物質が残留していないことを保証すること、抗生物質耐性との戦いを続けること
-100%の牛乳を検査。牧場や酪農場に納入される牛乳を組織的にチェックする:G3(すべての人に健康と福祉を)

②食品安全性の強化
-監視、制御、管理および調査方法の改善:G3(すべての人に健康と福祉を)、G17(パートナーシップで目標を達成しよう)

(3)栄養に関するパフォーマンス
①バランスのとれた食生活において乳製品が果たすべき重要な役割とその製造方法の推進
-フランスの消費者が乳製品に対して抱いている高い信頼性を向上させる:G12(つくる責任、つかう責任)

②地場産業と食文化の観点から、持続可能なフランス商品の輸出を促進する
-輸出、特に新興国への輸出においては、現地の提供物を補完し、競合しない高付加価値の乳製品を提供する姿勢をとる:G2(飢餓をゼロに)、G17(パートナーシップで目標を達成しよう)

(4)責任ある生産のパフォーマンス
①乳牛群の福祉を評価し、必要に応じて慣行を改善する
-農場を 100%監査:G12(つくる責任、つかう責任)
-科学的手法に基づいた、動物福祉に関する 6 つの評価指標:G12(つくる責任、つかう責任)

②酪農業のカーボンフットプリント(温室効果ガス排出量)の改善
-気候変動ロードマップの一環として、工場から出荷される牛乳 1 リットルあたりのカーボンフットプリントを 17%削減する:G7(エネルギーをみんなに。そしてクリーンに)、G12(つくる責任、つかう責任)、G13(気候変動に具体的な対策を)、G15(陸の豊かさも守ろう)

Q5. 【 経済的・社会的なパフォーマンス 】における 2 つのコミットメントについて教えてください。
すべてのステークホルダーが公平な報酬を得てきちんとした生活を送り、社会的・経済的に優れた業界を目指すためには、酪農事業のパフォーマンス(技術革新、投資など)を向上させることに加え、酪農家、乳製品加工業者、流通業者の間で、透明性が高く、迅速で公正な販売交渉を行う必要などもあります。

CNIEL としては以前から 「ベスト・ファーミング・プラクティス憲章 (La Charte des Bonnes Pratiques d’Elevage) 」というものを展開しており、会員の酪農家の約 97%が署名しています。この憲章は、酪農で行われていることを評価するだけでなく、酪農家がその技術を発展させられるようにサポートするツールでもあります。2019 年には、 「フランス・テール・ド・レ」の取り組みにおいても活用されることが決まりました。

Q6. 「ベスト・ファーミング・プラクティス憲章」について詳しく教えてください。
CNIEL では 1999 年から任意で開始され、署名契約をもって実行されるようになりました。乳量の割当制度が終わり、酪農家と乳製品加工業者の間で契約が規則となった時、憲章の遵守が条件の一つとなっていったのです。

この憲章は年を経るごとに内容が多くなり、第 5 版が 2022 年に発行される予定です。乳牛のトレーサビリティが確保されていること、良い健康状態にあること、健全かつバランスが取れ、トレースできる餌が与えられていること、ミルクの品質と衛生状態が保証されていること、アニマルウェルフェアと農場で働く人の安全が尊重されていること、環境保全を保証することなどを狙いとしています。

署名契約している酪農家は、最低 3 年に 1 回の審査を受けます。審査官は、乳製品加工業で働いていた飼育の技術者や、農業会議所や飼育のコンサルティング会社の技術者などです。

Q7. 【食品安全の分野のパフォーマンス】として、抗生物質の他に、 遺伝子組み換え作物の餌についても酪農においては注目されていますが、それについてはいかがでしょうか?
まず、 「GMO (遺伝子組み換え作物)フリー」については、 EU 共通の仕様書「EU 規則(CE) 1829/2003)」というものがあり、0.9%未満に抑えるという一つの規則があります。GMO を 0.9%以上含んだ製品の場合、あるいは原料や食品のうち最低 1 つが 0.9%以上の GMO を含んでいる場合は、「GMO(遺伝子組み換え作物)」あるいは「GMO を含む」というラベル表記が必須となります。

フランスでは「GMO フリー(0,9 %未満)の飼料で育てられた動物からの乳製品のためのフランスの仕様書」というものがあり、牛乳の生産、収集、加工の各段階において遵守するプロセスを確立することを目的としています。 「フランス・テール・ド・レ」でもそれに準じた取り組みを行っています。

Q8. 【栄養に関するパフォーマンス】の一環として、乳製品の栄養や味覚面での切り札は何でしょう?
ラクトースフリー、グルテンフリー、ミートフリーなど、“何かを極端に除去していく”というスタイルの食は、ビタミンやミネラルの大幅な欠乏など、健康に重大な影響を及ぼす可能性も含んでいます。年齢に関係なく、カルシウムが不足しやすい現代社会の中で、チーズをはじめとした乳製品が果たしている役割は大きいと思います。

さらに、乳製品は骨の健康を増進する役割があるため、生涯を通じて摂取することが推奨されています。食生活の乱れは、心血管疾患、糖尿病、がんなどの病気の一因となりえるため、乳製品が大きな役割を果たす “栄養バランスのとれた食生活” を送ることが大切だと考えます。

Q9. 【責任ある生産のパフォーマンス】において、酪農業のカーボンフットプリントの改善を目指した、温室効果ガス削減に対する取り組みについて教えてください。
フランスではこれまでに 1 万軒以上の農場が炭素排出削減に取り組み、 1990 年から 2010 年の間に、生産に関連する温室効果ガスの排出量を 23.8%削減できたという実績があります。

「低炭素農場(Ferme Laitière Bas Carbone)」というプログラムがあり、排出量の診断、個々のアクションプランの実施、そして時には飼育手法の変更を伴うアドバイスも受け、酪農家は温室効果ガスの排出量削減に取り組んでいます。ただし、コンサルを受ける日数に伴う費用など経費は安価ではありません。CNIEL ではその経済的なサポートにつながる 8 つのプログラムを現在進行中です。他にも、酪農家の地域団体や地方の酪農経済センターも財政支出を行うことがありますし、フランス環境エネルギー管理庁(Ademe)や EU によるサポートも行われています。

また、全国のすべての酪農家はフランスの環境連帯移行省が実施している「温室効果ガスの削減を証明するラベル(Label Bas Carbone)」を活用することができます。排出量の削減に取り組む酪農家は、削減した CO2 の量を証明してもらい、削減量に対して報酬(支援金)をもらうことができます。CO2 排出削減量をオフセットしたいと考える企業や団体が買い取るという仕組みで成り立っているわけですが、これにより酪農家は少額の投資でも温室効果ガス削減に取り組むことができるのです。

Q10. 酪農業のカーボンフットプリントの改善というコミットメントに「気候変動ロードマップの一環としての連携」とありましたが、具体的にはどういう取り組みがあるのでしょうか?
気候変動ロードマップというのは、CNIEL と飼育協会、フランス飼育コンサルタント、そして農業会議所が一丸となって、炭素排出量削減に取り組む中で共有している指標であり、戦略のことです。この戦略を通じて、フランスの酪農業界は 17%のカーボンフットプリント削減を実現するべく、対策を詳しく検討しました。対策は、以下の 4 つのステップに簡略化することができます。

STEP1:関心を高める
CNIEL、そしてそのパートナーの役割は、まず気候変動に対応することの必要性について広く訴えていくことです。気候と農場の持続性のための「低炭素農場(Ferme Laitière Bas Carbone)」プログラムのメリットを示すため、様々なプレゼンテーションやコミュニケーションツールを活用し、定期的に活動をしており、活動は農業高校で行われることもあります。

STEP2:測定する
それぞれの農場には個別の事情があるため、それぞれの状況に最も適した対策を示し、明確にする必要があります。業界に広く使われている炭素診断のツールを活用して、カーボンフットプリント削減に取り組む酪農家を支援していますが、このツールも環境変化などに応じて適宜変化するものでなければなりません。

STEP3:削減する
測定診断が終わったら実行へと移りますが、この活動はあくまでも酪農家の自発的なものなので、継続的にサポートが必要です。あらゆる可能な支援策を示し、酪農で使うことができる技術的なアドバイスにおいても、炭素削減を考慮に入れるようにしています。

STEP4:価値を高める
炭素削減に取り組む酪農家の努力を、業界の関係者はもとより、広く社会に対して知らしめていくことも CNIEL やそのパートナーの大切な役割です。前述の削減量に対しての報酬(支援金)に関するサポートもその一環ですし、他に CNIEL では、酪農家の公約と環境に対するポジティブな貢献(土中の炭素の貯蔵、生物多様性の維持など)を示すために、農場にパネルを設置することを提案しています。他に、牛乳の加工段階においても環境により影響の少ないものを選択することやエコなパッケージを使うことの示唆を行い、カーボンフットプリント削減に貢献しています。

フランス産チーズを変わらずに楽しんでもらえる「サステナブルな」未来のために
「ミルクの国」フランスには、1,200 種類のチーズを含む 1,500 種類の乳製品があります。

乳製品はフランスの文化遺産の一部であり、海外におけるフランスの高級食品のイメージを如実に表しています。CNIEL をはじめとしたフランスの酪農業界では、健康的で安全、倫理的かつ持続可能で手頃な価格の乳製品を国内外に提供できていることを誇りに思っていますが、信頼と評価は、地球環境と多様性を考えたサステナブルな活動の実行とその透明性によって得られることも認識しています。今回紹介した「フランス・テール・ド・レ」はその基軸にある取り組みです。

今後も世界の消費者を魅了し続けていくために、酪農、乳製品加工、流通、販売に携わるすべてのステークホルダーを支援していきます。

「数字で見るフランス産チーズ」

「生産」
✓ 牛乳の生産量:235 臆ℓ(うち、4.1%が AB 認定)
✓ フランス産チーズの生産量は毎年 1,966,627 トン
✓ うち、牛乳製チーズは 1,810,801 トン(羊:99,228 トン、山羊:56,598 トン)
✓ EU 加盟国のうち、ドイツに次ぐ第 2 位の生産量
✓ 酪農にかかわる小規模農家:54,000 軒
✓ 酪農にまつわる職種は、60 で、30 万人が従事、うち 85%が 15000 人に満たない自治体に居住
✓ 92%の乳牛は外部へのアクセスが可能な環境で飼育。
✓ うち 80%は 1 頭につき 10 エーカー以上の広さの牧草地が与えられている。
✓ 牧草・干し草・飼料の 85%は農場で調達

「加工」
✓ 乳製品加工所:721 カ所
✓ 牛乳をチーズに加工する割合:37%(日本は、0.5%)
✓ フランスの乳製品の AOP*:51(うち、チーズは 46、うち 75%が生乳チーズ)
✓ フランス産チーズは 1200 種(2,380 種類のうち主だった種類をカウント、CNIEL 調べ)

「消費」
✓ フランス国内における消費の割合:52%が小売、39%が乳製品として加工、9%が外食産

✓ フランス国内のチーズ販売店:3200 店舗
✓ フランス人は、10 人のうち 8 人が、少なくとも週に 1 回はチーズを消費する
✓ フランス人の1年間のチーズの消費量:平均 26,7kg(795,000 トンに相当、日本人は 2.7
㎏、ギリシャに次いで世界第 2 位の消費量)

「輸出」
✓ フランス産チーズは、生産量の 1/3 が輸出される。
✓ フランス産チーズは EU 加盟国のうちドイツとオランダに次ぐ第3の輸出量
✓ 一番輸出量が多いのは…
1位:フロマージュ・ブラン、フレッシュチーズ
2 位:白カビチーズ /
3位:加熱圧搾チーズ(ハードタイプのチーズ)

CNIEL:2022 年年間レポートより

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