社会

2026/9/7
オラドゥールの名を借りて山火事を語るとき、記憶は何を失うのか
ジロンド県の村ル・ポルジュを前日に訪れた社会党第一書記オリヴィエ・フォールは、9月4日、地元ラジオのインタビューでこう語った。「この比較をあえてしてよいのか分かりませんが、住宅が完全に焼け落ちている様子には、オラドゥール=シュル=グラヌに通じるものがあります」。今夏の山火事で183軒の住宅を失ったこの村を前に、彼の頭に浮かんだのは、1944年6月10日にナチスが640人を超える住民を虐殺した、あの…

2026/9/6
かごひとつ、電話一本、そして届かなかった通報――家族の外側にある社会の手
月に70ユーロ。ナディーヌと夫がリヨンの学生一人に費やす金額は、それくらいだという。WhatsAppで欲しいものを聞き、週末に家へ呼んで一緒に夕食をとり、買ったものを持たせて帰す。「子どもたちが家を離れた後も、時代に遅れずに学生を助けることができる」と彼女は語っている。相手の学生からは「人生で起きた最高のこと」と言われたそうだ。少し照れながらも、ナディーヌはその言葉を否定しない。

2026/9/5
「もう子どもを抱きしめてよいのか分からない」——沈黙を防ぐ制度は、現場の迷いから始まる
パリ20区のテレグラフ幼稚園。約15人の学童保育職員がテーブルを囲み、責任者から一つの問いを投げかけられる。「マティスが入学し、昼食時間の保育に初めて来ました。泣いていて、どうしてもあなたの腕に抱かれたがっています。あなたはどう反応しますか」。

2026/9/4
ベビーカーの車輪と黒い投稿——声を上げた人が消えない社会をどう作るか
リリア・メバルキアが息子の医療用ベビーカーを取りに出かけたのは、3月初めのある日だった。四つの車輪すべてに、ナイフで傷をつけられていた跡があった。「偶然の出来事ではありません」と彼女は語っている。彼女はヴァール県の上院選でLa France insoumise(LFI)の候補者名簿に名を連ねる活動家で、この出来事の前後、彼女のもとには殺害、レイプ、監禁を予告するメッセージが数千通単位で届いていた。…

2026/9/4
申請書を書ける人だけが助けられる、という国のかたち
リール大学は今年の新学期から、生理痛に悩む女子学生が年間14日、月2日まで、授業を自己申告だけで休める制度を導入する。必要なのは48時間以内のオンライン申告だけで、診断書はいらない。大学側はこれを「学生への信頼と責任に基づいた」制度だと説明している。慢性的な片頭痛や、近親者の死、暴力、個人的な緊急事態にも使えるという。

2026/9/3
「誰かが私の証言を売った」——声を上げることと、まだ裁かれていない人を裁くことの間で
9月2日の夜、インスタグラムに一つの投稿が現れた。ベルギー出身のアーティスト、エレナ・ノゲラが書いたのは、こんな言葉だった。「誰かが私の証言を報道機関に売った。報道機関は何の道徳心もなくそれを利用している」。彼女は数か月前、警察で証言していた。司法当局は秘密を守ると約束していたはずだった。それが、パリ・マッチとRTLという二つのメディアによって、水曜日の朝には彼女の名前として世に出ていた。仮名は「…

2026/9/2
ベールとスペーススーツ、教室の空席が問いかける「標準」の正体
パリ近郊エソンヌ県のショッピングセンター、レ・ジュリス。買い物袋を足元に置いた20歳のカディは、肩からずり落ちたベールの端をつまみながら言った。「誰も傷つけていないし、ほかの布地と同じ一枚の布にすぎません」。彼女はTikTokで、国民連合(RN)が公共の場でのベール着用を国民投票にかけるつもりだと知ったばかりだった。マリーヌ・ルペン氏は2027年の大統領選で勝利した場合、「イスラム主義的イデオロギ…

2026/9/1
国旗を掲げる自由、ベールを脱がせる自由——「公共秩序」という言葉が覆い隠すもの
南仏ニースの校庭に、旗ざおが立てられていく。幼稚園から高校まで、市内150校。毎週一度、子どもたちはフランス国旗の掲揚とともに「ラ・マルセイエーズ」を歌うことになるはずだった——市長エリック・チオッティ氏がそう発表したのが8月28日のことだ。ところがわずか3日後、国民教育相エドゥアール・ジェフレ氏はこの構想を退けた。「学校で何が行われるかを決めるのは市長ではない」。国民教育省という名称には「国民」…

2026/8/31
出生休暇と、語られなかった父の物語——ケアは誰のために可視化されるのか
4月末、39歳の医師エマニュエルは3人目の子どもの母親になった。妻のマルレーヌが出産した末娘のために、エマニュエルは2カ月間の追加休暇を取った。「仕事に追われることなく、私たちが持っていたエネルギーを家族と子どもに注ぐことができました」。職場復帰を数日後に控えて、彼女はそう語っている。

2026/8/29
暖房が止まる夜、独房の地面が50度になる昼――「生きるための基盤」を誰が守るのか
「もちろん考えます。シャヘドやミサイルが飛んでくると、気持ちのいいものではありません。怖いです。本当にとても怖い。でも、どうしろというのでしょうか。働くしかありません」

2026/8/28
エボラの隔離室は3床、学校では在留資格が問われる――マヨットが映す「同じ国」の限界
マムズーの病院に、負圧室が用意されている。収容できるのは3人。将来的には30人まで増やす計画だという。エボラ出血熱の症例はまだ一件も確認されていないのに、なぜここまで身構えるのか。答えは地図を見ればわかる。マヨットはコモロ諸島の一角にあり、アフリカ大陸で感染症が流行すれば、その波は真っ先にこの島に届く位置にある。フランス保健相ステファニー・リストが8月27日にこの病院を訪れたのは、パリの本土病院を…

2026/8/28
水上テーマパークで笑う子どもたちと、誰が損失の請求書を払うのかという問い
祖父と一緒に滑り台を滑ったダイアナは、タオルにくるまりながら「避難は少しつらかったので、今こうして楽しめるのがうれしいです」と話した。すぐ隣では、妊娠中のジェシカが幼い娘を見守りながら、雨が降っていることに安堵していた。「雨が降っているので、火事の危険が少なくなっていると安心します」。8月27日、ジロンド県の山火事で家を失った約100家族が、Secours populaireの招待でギュジャン=メ…

2026/8/28
17分間の人生と、テニスコートで交わされた不安——国境は誰のためにあるのか
「飛行機を降りたとき、みんなにこう言いました。『生まれたばかりだ。私の人生は始まったばかりで、まだ17分しかたっていない。30歳ではなく、17分なんだ』と」。8月26日、パリのロワシー=シャルル・ド・ゴール空港に降り立ったガザ地区出身のウィサームさんは、出迎えの音楽に包まれながらそう語った。ガザから避難した44人のうちの一人だ。詩人のアラー・アル=カトラウィさんは、空爆で4人の子どもを失った経験を…

2026/8/27
見えているのに、信じられない——透明性という約束が壊れる場所
6百万回。それが、パリでサウジアラビアのモハメド・ベン・サルマン皇太子を迎えた際に流れたある動画の再生回数だ。映像には、ニカブを纏った女性がエリゼ宮でエマニュエル・マクロン大統領に歓迎される様子が映っている。実際には皇太子は8月23日と24日にパリを訪れ、パリ郊外に遊園地を3つ設立する覚書に署名しただけで、そんな場面は存在しない。映像は凱旋門とエリゼ宮の階段をAIが混ぜ合わせて作った完全な偽物だっ…

2026/8/27
水道の蛇口とサケの養殖場、そして届かなかった6億ユーロ――公共サービスは誰のものか
蛇口をひねれば水が出る。車を停めれば駐車場がある。フランス北部、ブローニュ=シュル=メールの住民にとって、それはごく当たり前の日常だったはずだ。ところがいま、その水道契約と駐車場契約が、パリの国家金融検察局(PNF)への告発の対象になっている。反汚職団体AC!!が問題視しているのは、大手企業Veoliaとの水道契約が2021年、競争入札を経ないまま5年間延長されたことだ。表向きの理由は、地元で計画…

2026/8/27
証拠が揃うまで待てない人たちへ——乳がんとフィッシングメールと雷雨警報をつなぐ一本の線
1万2600時間。ソフィー・レノー(Sophie Lainault)さんが客室乗務員とチーフパーサーとしてエールフランスで飛んだ時間の合計だ。1989年から2019年までの30年間、その半分は夜間のフライトだった。59歳になった彼女は今、がんは寛解しているものの、フランス南西部バイヨンヌの裁判所から、乳がんを「職業病」と認定されるという、フランスの客室乗務員として初めての判断を受け取った。

2026/8/25
年140ユーロの重み――フランスが問う「みんなで負担する」の中身
薬局のレジで、処方箋の箱を受け取る。会計は保険でほとんどカバーされるはずなのに、なぜかレシートには数十サンチームが自己負担として残る。フランスに住んだことのある人なら見覚えのある光景だろう。この「医療自己負担額(franchise médicale)」という小さな負担の年間上限が、今年10月から100ユーロから140ユーロに引き上げられる。1年でならせば月1ユーロに満たない額だという。だが、この数…

2026/8/24
斧で壊された教会の扉と、インド洋の島で配られる水――「受け入れる」とはどういうことか
斧を振り下ろす音を、ムサは30年経った今も覚えている。1996年8月23日、パリ18区のサン=ベルナール教会。子どもを含む300人を超える非正規滞在者が避難していたその扉を、治安部隊が破城槌と斧でたたき壊した。「彼らは人々を捕まえて地面を引きずりました。まるで動物のようでした」とムサはRFIに語っている。催涙ガスが撒かれ、占拠していた人々は路上に出されるか、収容施設へ移送された。世界中に配信された…

2026/8/23
省庁の給湯室で交わされる合言葉と、大統領のそばを離れない携帯プリンター
8月22日、ヴァランス近郊で開かれたラ・フランス・アンスミーズ(LFI)の夏季大学に、ある高級官僚が同僚40人ほどと紛れ込んでいた。彼、あるいは彼女は、フランスの公務員に課される「中立義務」を理由に、名前も所属先も明かさない。だが匿名という条件つきで、初めて報道機関の取材に応じた。その人物が語ったのは、2026年5月に発足したばかりの秘密ネットワーク「フリジアン」の存在だった。約80人の高級官僚が…

2026/8/19
1,587人という数字が突きつける問い ― 被害者を守ることと、証拠で裁くことは両立するのか
8月18日、フランスのジェラルド・ダルマナン司法相はX(旧Twitter)に一つの数字を投稿した。1,587人。6月初旬以降、未成年者への性的暴力に関する事件で収監された人数だという。前回発表の8月4日からわずか2週間で163人増え、司法捜査に至った件数も約100件増の2,100件に達した。これは単なる治安統計ではない。この数字の背後には、11歳の少女の死という一つの悲劇と、彼女を救えなかったかも…