ヴェルヌイユ家の結婚狂騒曲

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フランスで1200万人も見た大ヒットの映画「ヴェルヌイユ家の結婚狂騒曲(Qu’est-ce qu’on a fait au bon Dieu ?)」がフランス映画祭で上演されます。原題は「神様に何をした?」となりますが、日本語題の方が日本人にとっては分かりやすいことでしょう。

この映画、現時点では日本では配給が決まっていませんが、正直、一般的な日本人に受けるようには見えませんでした。頭がフランス人化していれば、面白いかもしれません。

というのは、フランス人のジョークの感覚が日本人とは大きく異なるからです。1000万人も動員した「奇人たちの晩餐会」も変わった人を晩餐会に呼んで馬鹿にするという内容で、フランスではこういうのが良くヒットするんです。

この作品は、エスニックジョークといわれるブラックジョークの一種に分類されるなのですが、島国の日本ではなかなか外国の国民性を笑いものにする文化になじみが無いかもしれません。

フランス語でブラーグ(blague)といい、国境を接しているすべての国のブラーグがあります。たとえば、「ベルギー人は、ビールをポケットに注ぐ、何でだと思う?」「馬鹿だから」と言った具合に、大して面白くも無いジョークがイギリス人、スイス人、イタリア人などにも沢山あります。

さすがに映画なので、差別的、侮辱的なものは無いだろうと思うところですが、あまりそうでも無いのです。たとえば、「津波の後のフクシマのようだ」と言う台詞など、多分フランス人たちは映画館でゲラゲラ笑ったのでしょうが、日本で笑えるでしょうか?

敬虔なカトリック教徒で裕福なヴェルヌイユ家は4人の姉妹がいて、3人はユダヤ人、アラブ人、中国人と結婚しています。家族が集まるとそれぞれの民族の悪口が始まり収拾が付かなくなり、とても後味が悪くなってしまいます。最後の娘だけは、白人のフランス人と結婚して欲しいと考えている夫妻なのでした。

クリスマスの時だけは、うまく過ごそうと、娘たちがそれぞれの旦那に口裏を合わせて、婿たちの雰囲気も良くなっているところに、末娘がコートジボワール出身の黒人青年からプロポーズを受け、結婚をすることに。遂に両親もおかしくなってしまいます。

さらにコートジボワール人の父親は、フランス人、とりわけ白人が嫌いで、結婚式には難題を突きつけます。結婚式の前日、父親たちは2人の結婚には反対だと言い合いになります。

最後にはとても良い話しにまとめ上げるところはさすがで、終盤に行くにしたがってきわどいジョークは減りつつあります。フランス人の狭量な感じが良く出ていてとても面白く笑える作品です。

直接言及は無いのですが、時代の流れも良く読み取っている作品です。
たとえば、グローバル化、多民族社会と言いながらも自分たちの伝統的な文化(ここではフランス)がスポイルされていくことへの不満。

2人の父親は、共にド・ゴール主義者だと言うのです。ド・ゴール主義とは、フランス独自の道を行く国際政治上の立場で、たとえば、当時はNATOやEEC(欧州経済共同体、EC/EUの前身)などから反対もしくは距離を置く立場です。これは右派、左派といった社会、経済などの政策の違いとは関係ないものです。(保守派にもいるし、革新派にもいる)

近年は、ギリシャ危機などで自国とは関係ない問題からユーロ危機が生じ、自国への問題が生じています。日本でも、隣国からのバッシングやイルカ・鯨漁などへの反発などで、日本人は保守化してきているとかナショナリズム化しているなどと言われますが、これはド・ゴール主義ぽいのかなと感じました。

ナショナリズムというものは、フランス革命後のフランスから生まれました。自分たちで市民革命を起こし、ウィーン体制との反発から共和国国家「フランス」への帰属意識が高まったのです。日本でも明治に入り、アジアの列強による植民地化に対抗して強力な中央集権国家が出来、おクニよりも日本人としての帰属意識が高まりました。

中国の台頭が如実に表れています。今までは「ユダヤ人が世界の銀行だったが、それは過去の話。」「中国が全部買ってやる」とか、一昔前なら日本人がやり玉に挙がっていた役を中国人が務めています。

こういった世界的に起こっているグローバリズム化の不満や民族対立などをうまく突いたテーマをコメディーという形で笑い飛ばしている作品です。フランス以外でもヒットする可能性はありますが、日本ではどうでしょうか?正直なかなか厳しいのでは無いかという印象です。

Antenne France
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